レンバチニブは、進行肝細胞癌患者の初回化学療法の患者を対象として、ソラフェニブと比較した第Ⅲ相試験において全生存期間での非劣性が示され、本邦でも2018年3月23日、適応拡大が薬事承認され、保険適用となりました。これで2009年5月に承認されたソラフェニブ、2017年6月に承認されたレゴラフェニブに次いで、肝細胞癌に対する3剤目の分子標的治療薬の承認になります。
新規の薬剤は一般的には優越性が示されて承認されるものでありますが、肝細胞癌においては有望な薬剤が乏しいということで非劣性での開発が認められ、レンバチニブは非劣性が示され、承認されました。薬事承認のなかでも非劣性で承認される薬剤はほとんどありませんが、レンバチニブはソラフェニブと比べて、有意に良好な無増悪生存期間、無増悪期間、奏効割合が報告されており、薬剤としての有効性も示されており、十分、保健承認に値するものと考えております。
レンバチニブは、東病院から電車で30分ぐらいの距離にあるEisaiの筑波研究所で創製された薬剤であり、この薬剤が全世界に広がっていくことは、レンバチニブの肝細胞癌の開発に第Ⅰ相試験から第Ⅱ相試験、第Ⅲ相試験まで携わった東病院としても、そして私個人としても大変嬉しい限りであります。
また、レンバチニブで一番驚かされた結果は、modified RECIST判定での奏効割合(中央判定)が40.6%という、これまでの全身化学療法では聞いたことがないほど良好な奏効割合であります。最近、免疫チェックポイント阻害薬の奏効割合が注目されていましたが、それをも凌駕するほどの結果であり、肝細胞癌においてもとうとう全身化学療法でも奏効が得られる時代が到来したことを痛感させられました。現在、このレンバチニブと免疫チェックポイント阻害薬の併用療法などの開発も進んでおり、奏効割合が50%を超える日も夢ではなくなってきました。
このように有望や薬剤であれば、しっかり使いこなす必要がある。というわけで、これまでのソラフェニブ、レゴラフェニブと同様にレンバチニブのチームを立ち上げました。それがチームレンバチニブの発足です。
いつもと同じように、総勢25人以上の医師、薬剤師、看護師、治験コーディーネーター、ソーシャルワーカーに日々の診療終了後に集まっていただき、また、甲状腺癌でレンバチニブの使用経験のある先生に話を伺いながら、レンバチニブのそれぞれの有害事象の発現頻度、メカニズム、対処方法、予防策、患者指導などに関して検討会を開催し、国立がん研究センター東病院としての方針を決定してきました。また、必要に応じて皮膚科や内分泌科などの専門の先生にも相談しながら、東病院オリジナルの対処方法を作り上げてきました。
この本は、その検討結果をまとめて、一冊のマニュアル本として作成したものです。病院で実際に処方する先生方、薬剤師や看護師などの皆さまにレンバチニブについて、より知っていただくための参考にしていただければ幸甚です。ただし、あくまでもわれわれ国立がん研究センター東病院の方針であり、多少、添付文書やレンバチニブの適正使用ガイドと異なるところがあることはご了承いただきたい。
最後に、この本が少しでも皆さまの日々のレンバチニブの診療の一助となり、肝細胞癌患者さんにレンバチニブの恩恵をもたらすことができれば幸いであります。
(池田公史「はじめに」より抜粋)
第1章 レンバチニブの基礎データ
第2章 レンバチニブの臨床成績
第3章 レンバチニブの対象
第4章 レンバチニブの投与方法
第5章 レンバチニブの治療効果判定(RECISTとmRECISTについて)
第6章 レンバチニブの副作用マネジメントのポイント
第7章 副作用対策(チームレンバチニブでの対応)
第8章 それぞれの立場でのマネジメント
第9章 がん患者への経済的支援と精神的支援