日本甲状腺学会は,1958年5月に第1回甲状腺研究会が京都で開催されたことに始まります。1980年内分泌学会甲状腺分科会の形態を経て,1996年から現在の学会形態となりました。学会創設以来,甲状腺学の進歩と向上,学術集会の開催と国際交流の促進,研究者とおよび優れた臨床医の育成を目的とした活動を一貫して継続してまいりました。2017年8月現在,学会員数は2,500名を超え,認定専門医は600名超と日本全国を網羅し,世界最大級の甲状腺関連学術組織に発展しています。
学会創設50周年であった2007年におきましては,記念随想集『21世紀の甲状腺診療・研究への展望』が刊行されました。日本甲状腺学会の発展に大きく貢献され,甲状腺の診療研究に携わる国内50名の執筆者による熱いメッセージが語られたことは記憶に新しいことと思います。そして,本年別府で開催される日本甲状腺学会学術集会は第60回を数えるに至っています。60周年は還暦にあたり,50周年に匹敵した記念すべき年と思います。そこで本学会としては,学会創設60周年を記念した事業の大きな柱の1つとして,甲状腺学に関連した書籍の刊行を企画することになりました。具体的には,全身のさまざまな臓器に作用するという甲状腺ホルモンの最大の特徴に着目して,甲状腺ホルモンの多面的な作用,他の領域の疾患との関連を説明した本格的な学術書『甲状腺ホルモンと関連疾患』の作成・発刊を企画いたしました。総論「甲状腺ホルモンのメカニズム」に加えて,22章からなる各論(関連疾患や関連分野)から構成されています。このような視点から網羅的に詳述された書籍は,わが国のみならず世界にも類がないと思います。そこで,日本語版のみならず英語版での作成・発刊を行い,世界への情報発信を目指すこととしました。執筆者は若手を優先し,若手研究者による単著,またはその指導者による共著が原則になっています。これらの企画によって,若手研究者の育成と国際的活動の推進に大いに貢献できることを期待しています。
最後に,本書は本学会雑誌の特別号として発刊されます。雑誌編集委員長 吉村弘先生,同編集委員 山田正信先生をはじめとする雑誌編集委員会の皆様,出版に際して大変お世話になったメディカルレビュー社の位下信太郎氏と行田俊之氏など関係諸氏に深謝致します。
(赤水 尚史「序」より抜粋)
◎総論
・甲状腺ホルモンのメカニズム/佐藤哲郎/山田正信
◎各論
・甲状腺ホルモンと不整脈―心房細動を中心に―/町野 毅
・甲状腺ホルモンと心不全/井口守丈/赤尾昌治
・甲状腺ホルモンと高血圧/古川安志/赤水尚史
・甲状腺ホルモンと骨粗鬆症/平塚いづみ/鈴木敦詞
・甲状腺ホルモンと精神疾患/深尾篤嗣/高松順太/伊藤 充/有島武志/横山 博/田中美香/河合俊雄/岡本泰之/宮内 昭/今川彰久
・甲状腺ホルモンと認知機能障害/廣西昌也
・甲状腺ホルモンと妊娠/不妊症/不育症
1)妊娠/小林(垣田)真以子/田上哲也
2)不妊症/谷村憲司/山田秀人
3)不育症/米田徳子/齋藤 滋
・甲状腺ホルモンと糖尿病/原井 望/古屋文彦/北村健一郎
・甲状腺ホルモンと脂質異常症/橋本貢士
・甲状腺ホルモンと肥満/エネルギー代謝/中島康代/堀口和彦/小澤厚志/佐藤哲郎/山田正信
・甲状腺ホルモンと自己免疫疾患/渡邉幹夫
・甲状腺ホルモンと皮膚科領域(皮膚の保湿,体感温度・発汗,脱毛,白斑,粘液水腫など)/茂木精一郎
・甲状腺ホルモンと全身症状(発汗,筋収縮・筋弛緩,振戦,周期性四肢麻痺など)/吉原 愛
・甲状腺ホルモンと重症疾患/野村惠巳子/西村久美子/豊田長興
・甲状腺ホルモンと閉塞性睡眠時無呼吸/立川 良/陳 和夫
・甲状腺ホルモンと肝機能障害/井上貴子/田中靖人
・甲状腺ホルモンと消化管領域(便秘・下痢,食欲亢進・低下,巨大結腸症など)/下山康之
・甲状腺ホルモンと腎機能障害/脇野 修
・甲状腺ホルモンと血液内科領域/渡邊奈津子
・甲状腺ホルモンと小児科領域―精神・神経発達障害(精神・知的活動の低下)―/南谷幹史
・甲状腺ホルモンと耳鼻咽喉科領域(難聴・嗄声)/寺西正明/曾根三千彦
・甲状腺ホルモンと眼科領域/北口善之/Jacqueline Mupas-Uy/柿﨑裕彦