免疫調節薬(immunomodulatory drugs:IMiDs)という言葉を,骨髄腫治療における必須の治療薬カテゴリーとして頻繁に耳にするようになった。本邦ではサリドマイド,レナリドミドに続き2015年3月にポマリドミドが承認を受け,3剤が臨床現場に供されている。
分子標的薬に代表される特定の疾患を対象とした薬剤が多く開発されているなかで,これらIMiDsは造血器腫瘍細胞の増殖抑制作用,免疫賦活作用,さらには骨髄内微小環境への作用等,多彩な薬理作用を示す。最近,E3ユビキチンリガーゼ複合体の一部であるセレブロンがIMiDsの結合蛋白であることが明らかになったことにより,その作用機序に関しての研究が急速に進んでいる。セレブロンの下流では様々な基質蛋白が作用し,IMiDsの多彩な薬理作用を仲介・制御していると考えられる。
このようにユニークな特性をもつIMiDsであるが,第1世代のサリドマイドは1950年代に睡眠鎮静薬として開発されたものの,催奇形性の発現で長く医薬品としての販売が停止された歴史をもつ。その後,1990年代になって多発性骨髄腫治療薬として新たに開発された。
新規IMiDsのレナリドミドはデキサメタゾンとの併用で多発性骨髄腫に対して優れた治療効果を示すことが報告されており,プロテアソーム阻害薬とともに骨髄腫治療の標準薬としての地位を確立している。今後,リンパ腫など,その臨床応用が広がっていくことが予想される。
この度新たに承認を受けたポマリドミドは,臨床試験においてレナリドミド,プロテアソーム阻害薬での治療を終えた患者に対する効果が認められており,本邦においても骨髄腫治療成績をさらに高めるため,本剤を組み入れた様々な臨床研究が進められていくであろう。
本書では,これらIMiDsの基礎から臨床まで幅広いテーマに関し,いずれも本邦の第一人者に依頼し寄稿いただいた。最新の骨髄腫治療を考えるうえでの一助になることを期待する。
(赤司浩一「序」)
○基礎編
1.多発性骨髄腫におけるIMiDsの作用機序
COLUMN レナリドミドの臨床面からみた免疫作用
2.骨髄異形成症候群におけるレナリドミドの作用機序
3.IMiDsとセレブロン
○臨床編 ―多発性骨髄腫と類縁疾患―
1.多発性骨髄腫の治療目標 ―移植適応患者―
2.多発性骨髄腫の治療目標 ―移植非適応患者―
3.個別化治療
4.ガイドラインにおけるIMiDsの位置付け
5.サリドマイド
6.レナリドミド
1)くすぶり型骨髄腫
2)移植適応のある初発多発性骨髄腫
COLUMN 多発性骨髄腫における微小残存病変の検出方法とその意義
3)移植非適応の初発多発性骨髄腫
4)再発・難治性骨髄腫
5)多発性骨髄腫におけるレナリドミドと新薬の併用
6)ALアミロイドーシス
7)POEMS症候群
8)多発性骨髄腫に対するレナリドミドの費用効果分析
7.ポマリドミド
○臨床編 ―骨髄異形成症候群―
1.レナリドミド
○臨床編 ―その他の造血器腫瘍―
1.B型細胞リンパ腫に対するレナリドミド
2.T細胞リンパ腫に対するレナリドミド
○臨床編 ―安全性―
1.レナリドミドの副作用マネジメント
2.ポマリドミドの副作用マネジメント
3.2次発がんに対する懸念