IL-6の一連の研究は,基礎的研究の成果を臨床へと応用する,いわゆるトランスレーショナルリサーチの理想的なモデルであり,今後の臨床免疫学研究にも大いに参考になると思われる。そこで,基礎研究で得た成果の発展・応用を考えておられる基礎研究者のみならず,臨床研究や診療に携わる先生方に,IL-6研究の臨床応用への過程に焦点をあて,わかりやすく解説したいと考えた。紙面の都合上限られた研究しか取り上げることができなかったが,基礎研究が臨床へと応用された成功例として貴重な記録となり,ひとりでも多くの読者諸氏がトランスレーショナルリサーチに興味を持っていただければ幸いである。
(「序文」より)
第1章 IL-6 in Bench Study
1.IL-6のバイオロジー
/IL-6の分子的側面 /IL-6受容体 /IL-6シグナル伝達系 /gp130-Y759/SHP-2/ERK-MARKシグナル /gp130-STAT3シグナル /IL-6/gp130シグナル伝達系の負の制御 /gp130シグナル伝達オーケストラモデル /F759自己免疫疾患発症マウス /IL-6と樹状細胞
2.IL-6の病態への関わりと疾患モデルによる検討
・キャッスルマン病
/キャッスルマン病の分類と頻度 /キャッスルマン病の病理像 /キャッスルマン病の臨床 /キャッスルマン病とIL-6機能 /キャッスルマン病の病態におけるIL-6産生亢進 /キャッスルマン病のIL-6阻害療法 /キャッスルマン病のIL-6阻害療法の臨床結果に基づく病態の理論的裏付けの解析およびIL-6阻害療法の意義 /キャッスルマン病のIL-6産生原因
・多発性骨髄腫
/骨髄腫細胞の増殖因子はIL-6である /IL-6に反応して増殖するMPC-1-CD49e-CD45+未熟型骨髄腫細胞 /CD45+未熟型骨髄腫細胞のアポトーシス感受性
・関節リウマチ
/間接リウマチの病態 /IL-6のRAの病態への関わり /RAの疾患モデル /IL-6ノックアウトマウスを用いた関節炎モデルの解析 /コラーゲン誘導関節炎(CIA)に対する抗IL-6受容体抗体治療 /サイトカイン受容体gp130を介するシグナル異常による関節炎モデル
・全身性エリテマトーデス
/BWF1マウスB細胞に及ぼすIL-6の影響 /抗マウスIL-6R抗体によるBWF1マウスでの病態の抑制 /海外での臨床試験
・クローン病
/クローン病とIL-6 /IL-6のシグナル伝達 /実験腸炎モデルにおけるIL-6の重要性
・間質性肺炎
/Castleman病―ヒトのIL-6過剰発現による肺疾患モデル― /ヒトIL-6/IL-6受容体遺伝子導入マウス―トランスジェニックマウスを用いた検討― /ヒトIL-6/IL-6受容体遺伝子導入マウス―生体内遺伝子導入法を用いた検討― /生体内IL-6およびIL-6R遺伝子導入による肺間質の病理学的変化
・IgA腎症
/IgA産生調節とサイトカイン /メサンギウム細胞とIL-6 /腎炎モデルとIL-6 /IL-6の糸球体内産生 /尿中IL-6の臨床応用
・脊髄損傷
/脊髄損傷の病態生理学 /IL-6と炎症の制御 /IL-6と神経幹細胞の分化制御 /IL-6シグナルのもつ“二面性”
3.ヒト化抗ヒトIL-6受容体抗体の開発
/抗体医薬品について /トシリズマブの開発プロセス
第2章 IL-6 in Bedside Study
キャッスルマン病
/Castleman病とは /Castleman病に対する従来の治療 /今後の展開
関節リウマチ
/関節リウマチにおけるIL-6の役割と探索的IL-6阻害治療 /トシリズマブの第I/II相臨床試験 /トシリズマブの後期第II相臨床試験 /関節破壊の進行予防効果 /IL-6阻害が治療効果を発揮するメカニズム /今後の展望
若年性特発性関節炎
/若年性特発性関節炎とは何か /若年性特発性関節炎を対象としたtocilizumab治験
クローン病
/クローン病とは /抗IL-6レセプター抗体への期待 /クローン病の病態とIL-6 /ヒト化抗IL-6レセプター抗体
多発性骨髄腫
/増殖因子は悪性形質細胞の生存と増殖を促すのに重要な存在 /多発性骨髄腫には多くの増殖因子が関与している /マウス由来抗IL-6モノクローナル抗体による多発性骨髄腫患者の治療 /抗IL-6療法により,マウス由来抗IL-6MoAbに結合したIL-6が循環血中に高濃度に蓄積された /抗IL-6療法と高用量化学療法の併用 /抗IL-6療法の今後の利用
あとがきにかえて―Beside to Bench 免疫難病発症機構への解明へ―