免疫グロブリンが発売されて30年以上経過した。当初は低・無ガンマグロブリン血症と重症感染症治療が主要な目的であったが,その後適応が拡大され,投与量,投与法にも変更が加えられて現在多方面に免疫グロブリンが使用されている。もっとも多く使われてきた重症感染症に対して比較試験による効果確認が必要となり,対照群との間に有意差が得られて,効果についてのエビデンスが明らかになった。その研究のプロトコールである抗生剤3日間無効例に対する抗生剤との併用投与で,1日5g,3日間の投与法が標準投与法となった。大量投与が多くの自己免疫疾患に対して効果を示すことが報告され,特発性血小板減少症紫斑病,川崎病,慢性炎症性脱髄性多発根神経炎,ギラン・バレー症候群,天疱瘡,チャーグ・ストラウス症候群,アレルギー性肉芽腫性血管炎,多発性筋炎・皮膚筋炎,重症筋無力症,スティーブンス・ジョンソン症候群,中毒性表皮壊死症,血清IgG2値の低下を伴う,急性中耳炎等の発症抑制にも適応が認められている。このような適応症の拡大とともに免疫グロブリン治療効果のエビデンス集積の必要性がいっそう高くなり,注意深い投与とその後の観察がこれら疾患の治療に要求されるようになってきた。また免疫グロブリンが病気の軽快はもたらすが,治癒が得られる場合が少なく,病状悪化,免疫グロブリン投与,病状軽快の繰り返しについて,費用効果の面からも厳しい投与基準が求められるようになってきた。免疫グロブリンは適正に使えば,他剤では得られない効果が認められるが,学問的にも健保審査の面でも治療担当医が,その適応,投与量,投与期間,効果判定,投与中止基準,副作用などについて正確な知識を持ち,正しく使用することが必要である。本書はこのような目的で,実際に臨床に関わる医師のBedsideですぐに役立つように企画した。執筆者はそれぞれの分野における権威者であるが,やさしく実際的な記述をお願いしている。読者のお役に立つように希望している。
(正岡 徹「序文」より)
血漿分画製剤の分類/正岡 徹
免疫グロブリン製剤の作用機序/斧 康雄
適応疾患と治療
1)低または無γ-グロブリン血症/金兼弘和/宮脇利男
2)重症感染症
①血液系/笹田昌孝
②内科系/三笠桂一
③外科系/山上裕機
④救急系/遠藤重厚
3)特発性血小板減少性紫斑病
①小児/白幡 聡
②成人/藤村欣吾
4)川崎病急性期/石井正浩
5)神経内科疾患/森 恵子/祖父江元
6)自己免疫疾患/宮坂信之
7)天疱瘡/北島康雄
8)重症筋無力症/川口直樹
静注用免疫グロブリン製剤Q&A
Q 重症感染症に対する静注用免疫グロブリン製剤の適応範囲について教えてください
Q 静注用免疫グロブリン製剤の投与速度について教えてください
Q 静注用免疫グロブリン製剤とワクチンの相互作用について教えてください
Q ショック,アナフィラキシー様症状が現れたときの対処法を教えてください
血漿分画製剤の安全性確保
1)血液製剤の適正使用 ―血液法と改正薬事法が求めるもの/比留間潔
2)血漿分画製剤の製造工程と安全性確保対策/河原和夫
[参考資料]
重症感染症に対する静注用免疫グロブリン製剤の抗生物質との併用効果