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アンチエイジングからスタチンを考える

脳年齢に対するアンチエイジング―スタチンに期待されること

里直行篠原充栗波仁美島村宗尚森下竜一

Anti-aging Science Vol.3 No.2, 14-18, 2011

はじめに
 認知症は高齢化を迎えている現代社会において増加の一途を辿っている.20年後には300万人を超えると試算されており,その予防・治療法の開発が待たれている.認知症の内訳は,アルツハイマー病(AD)が最も多く,脳血管性認知症,レヴィー小体病,前頭側頭葉変性症などがある.アルツハイマー病(AD)の治療法はコリンエステラーゼ阻害薬,NMDA受容体拮抗薬が現在,臨床で一般使用可能であるが,対症療法ではある.現在,ADの原因はベータ・アミロイド(Aβ)の蓄積であるという仮説に基づいたAβ切断酵素阻害薬やワクチン療法などのDisease Modifying Therapy(根本的治療法)が開発され,臨床試験中である.しかしながら,ADの予防薬・治療薬の確立には副作用の克服を含めてまだまだ課題が残されている.一方で近年,ADと生活習慣病の関係も注目されており,そこから予防・治療法の戦略が見出される可能性も指摘されている.本稿では,ADの予防法・治療法の開発と現況を述べ,脳卒中およびADに対するスタチンの有効性について述べる.

Key Words
●アルツハイマー病 ●脳血管性認知症 ●ベータ・アミロイド ●分子制御 ●予防

Ⅰ アミロイド仮説に基づいたADの予防法・治療法の開発と現況

 アロイス・アルツハイマーが約1世紀前に報告したADの特徴は,脳内における広範なAβの沈着と神経原線維変化の出現および神経細胞の脱落である.老人斑に沈着するアミロイドは1984年にGlennerらによって40~42アミノ酸のAβが同定された.そのシークエンスをもとにAβの前駆体であるAmyloid Precursor Protein(APP)が同定され,その3年後,家族性ADの家系にAPPの遺伝子変異が見つかったことから,AβがAD発症メカニズムの最も上流にあるとするアミロイド・カスケード仮説が提唱された.さらにAD患者の脳に最初に蓄積するのがAβ42であること,このAβ42がAβ40に比し格段に凝集しやすい性質をもつこと,さらに別の家族性ADの原因遺伝子Presenilinに変異をもつとAβ42の産生が増加することから,病態におけるAβの重要性の認識が定着してきている.また,驚いたことにAβの蓄積は記憶障害の症状が訪れる10~15前より始まっていること,さらにアミロイドPETの結果によると健常者の3割にAβの蓄積がみられることである.
 脳内Aβ量はその産生量とクリアランス量のバランスで制御されている.APPがβ-セクレターゼであるBACEによる膜外での切断を受けると,引き続きPresenilinを中心とするγ-セクレターゼcomplexによるAPPの膜貫通領域における切断を受けAβが産生される.Aβは産生された後,非常に凝集・重合しやすい構造(βシート構造)を有するため,老人斑やオリゴマーを形成する.Aβは凝集・重合を免れると,分解酵素による分解および脳からの排出によってクリアランスされると考えられている.Aβの代表的な分解酵素としてはネプリライシン(NEP)あるいはInsulin Degrading Enzyme(IDE)が知られている.また,Blood Brain Barrierを介したトランスポートや脳脊髄液から脈絡槽を介したクリアランス,マイクログリアによる貪食によるAβのクリアランスが想定されている.われわれはスタチンがAβ産生およびクリアランスの両方に影響をもつことを見出した.スタチンは遠藤博士により,カビの代謝物から発見された薬剤であり,HMG-CoA還元酵素を阻害し,コレステロール生合成を抑制する.と同時に,イソプレニル経路も抑制することによって,さまざまな生命機能に影響を与える効果が知られており,多面的作用(pleiotrophic effects)と呼ばれている.

Ⅱ 脂質異常症,スタチンと脳卒中

 脳血管性認知症は動脈硬化などの血管因子がその発症に強く関与するが,脳卒中が大きな要因となる.スタチンの服用は脳卒中を一次および二次予防することが証明されている.観察研究においては,脂質異常症と脳血管疾患発生率との間に因果関係は不明であるとされているが,ランダム化臨床試験ではスタチンによる脳卒中発生率の抑制がWOSCOPSやAFCAPS/TexCAPS,ASCOTLLAその他の臨床試験で認められており,脳卒中発生の抑制率はスタチンによるLDL-コレステロールの低下の程度と相関していることが示されている1)2).
 例えば,ASCOT-LLAでは総コレステロールおよびLDLコレステロールはプラセボ群に比べてアトルバスタチン群でそれぞれ24%,35%低下しており,二次エンドポイントである致死的および非致死的脳卒中を27%低下させている.しかし,ALLHAT-LLTでは総コレステロールで9%,LDLコレステロールで17%の低下に止まり,それに伴い脳卒中発生抑制も有意でなかった.さらに,興味深いことに糖尿病患者では血糖と血圧の管理に加えてコレステロール低下療法も脳卒中抑制効果が示されており(MRC/BHF Heart Protection Study,CARDS:Collaborative Atorvastatin Diabetes Study),糖尿病患者ではその血中コレステロール値に関係なく,スタチンによる脂質管理が推奨される3)4).
 われわれも動物実験であるが,中大動脈閉塞後の認知機能がスタチン投与で改善することを見出しており,脳血管障害に対するスタチンの有用性を確認している(図1)5).

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