―近年,研究が活発になってきている老化細胞除去治療について教えてください.

1961年,Hayflickらにより細胞が老化することが報告されて以来¹⁾,老化細胞はさまざまな加齢関連疾患に関与することが明らかになってきました.動脈硬化や心不全などの循環器疾患においても,加齢による生活習慣病などの原因以外に,じつは細胞老化が関与している可能性が示唆されています.事実,これらの疾患ではp53/p21,p16,テロメア短縮などのさまざまな老化マーカーや,老化細胞を分泌すると報告されているサイトカイン,ケモカインなど炎症性遺伝子群(senescence-associated secretory phenotype;SASP)因子の増加が認められており,細胞老化を抑制すると病態が改善することも報告されています.

以上のことから,細胞老化の抑制は加齢関連疾患の治療に有用と考えられます。一方で,細胞老化は傷害を受けた細胞が増殖をくり返してがん化するのを防ぐメカニズムでもあり,細胞老化を抑制するとがん化を促進するのではないかという懸念もあります.そのような中,近年,老化細胞を体内から除去して老化を制御するsenolysis(老化細胞除去治療)という新たな概念が提唱され,老化細胞を治療標的とするsenolytics(老化細胞除去薬)の探索が進むとともに,あらゆる加齢関連疾患がその研究対象となるとして大きな注目を集めています.