腫瘍細胞は生物進化に似たメカニズムで発生し,多様性に富むため,腫瘍組織は不均質である.免疫細胞にも多様な細胞が含まれ,それぞれに機能と分化が異なるサブポピュレーションが存在する.両者のダイナミックな相互作用は,生体の環境下において経時的な変化と解剖学的な影響を受けることから,非常に複雑であり,その解析は容易ではない.そこで,生体内の抗腫瘍免疫応答を,ダイナミックなシステムとして捉えて評価する手法が求められている.「がん免疫サイクル(cancer-immunity cycle)」は抗腫瘍免疫応答を一連のサイクルとして評価する有用な概念の1つであり,腫瘍特異的T細胞による抗腫瘍免疫応答を次の7つのステップで説明している1).①腫瘍抗原の放出,②抗原提示細胞(antigen presenting cell:APC)による腫瘍抗原の取り込みとリンパ節への遊走,③T細胞への抗原提示と抗原特異的T細胞の活性化,④活性化T細胞の遊走,⑤腫瘍組織への浸潤,⑥腫瘍細胞の認識,⑦攻撃.T細胞に攻撃され細胞死を起こした腫瘍細胞は新たな腫瘍抗原を放出し,①に戻る.この一連のサイクルにおいて,いずれのステップが障害されても効果的な抗腫瘍免疫応答の誘導が困難となり,がんは免疫監視機構から逃避する.