体臭と一言でいっても,体の各部位で香る臭いは異なる.たとえば足の裏,頭皮,腋窩,陰部などから発せられやすい臭いはそれぞれに特徴があり,その臭気物質も同定されている.足の裏は主としてイソ吉草酸,頭皮はペンタナール,ヘプタナール等の軽い刺激臭をもつアルデヒド類と,イソ酪酸,吉草酸,ヘキサン酸等の脂肪酸が混在して臭いをつくっているとされる.
では,なぜ異なる臭気物質が生じるのか.そこにはヒトの一次代謝経路と二次代謝経路が密接にかかわっている.一次代謝経路はヒト臓器による代謝を指す.個人のもつ全身疾患,たとえば糖尿病,肝・腎疾患などでは正常な一次代謝が行われないため,肝臓や腎臓で代謝・排泄されるべき物質が血中に残存し,呼気や汗などから体外へ排出される.糖尿病患者のケトン臭や,肝疾患患者のメチルメルカプタンやジメチルスルフィド,アンモニアといったものが体臭として生じやすくなる.そして二次代謝経路はヒト共生細菌(体臭の場合は主として皮膚常在細菌)による代謝を指す.汗腺や皮脂腺が分泌した糖蛋白質やトリグリセリドをヒト共生細菌がグリセリンと脂肪酸に分解する過程で,さまざまな臭気物質を産生する(図1).よって,体調,基礎疾患や食事内容,ヒト共生細菌の状態に体臭は決定されるといえる.