今回のディベートは甲状腺分化癌全摘後の甲状腺刺激ホルモン(TSH)抑制を推奨できるかどうかについてである。菊森先生には“推奨できる”,吉村先生には“推奨できない”というお立場からご執筆いただいた。1つ興味深いのは,お二人の先生ともTSH抑制を無条件に推奨したり,否定したりしているわけではないということである。お二方が述べられているように,TSH抑制には骨密度の低下や心房細動をはじめ,いくつかの重要な有害事象が知られている。こういった有害事象が出現する可能性があってもTSH抑制を行うだけの利点がないと考えられる場合には,TSH抑制は勧められない。われわれの研究ではT1N0M0乳頭癌の予後は極めて良好で,10年無再発生存率は97%に及ぶ1)。本来全摘が必要ではないT1N0M0症例に対して,対側葉に結節がある,癌が多発しているなどの理由で全摘を行った場合,術後TSHをきちんと抑制すべきだとはとても思えない。また,一口にTSH抑制といってもTSH値を測定感度以下にもってきて完全抑制とするのか,そこまで徹底的には行わないが正常下限を確実に下回るようにするのか,あるいはTSH値の正常下限あたりを目指すのか(いわゆるlow normal)を個々の症例で決定することも臨床の場では大事な問題である。