Administration for Psychiatry
わが国におけるハーム・リダクション政策の可能性と課題
精神科臨床 Legato Vol.7 No.3, 60-62, 2021
国家的規模で薬物問題に取り組む際,まず優先されるのは,国民の薬物使用量低減のための対策である。そして国民の薬物使用量低減にあたっては,2つの戦略が,いわば車の両輪となって機能しなければならない。その1つは,Supply Reduction(供給低減)である。これは,社会内に薬物が流通しないように,薬物を規制し,販売者や販売組織を取り締まることを意味する。そしてもう1つは,Demand Reduction(需要低減)である。薬物を欲しがる人を減らすこと(=薬物乱用防止・再乱用防止)を意味する。なかでも使用障害の治療と回復支援が重要である。というのも,危険を冒して薬物を入手し,闇マーケットにおける薬物価格を高騰させているのは,使用障害罹患者だからである。
しかし,規制強化による供給低減には限界があり,使用障害の治療・回復支援のための体制を整備しても,治療にアクセスしないもの,あるいは治療から脱落するもの,さらには,治療を最後まで受けたにもかかわらず断薬困難なものは必ず存在する。そのようなものに対しては,薬物使用の結果生じる健康被害や社会的弊害を低減することで,薬物使用によるharmを最小化する必要がある。そのための対策がHarm Reduction(HR)なのである。いいかえれば,HRは,決して供給低減と需要低減による薬物使用量低減施策を否定するものではなく,むしろそれを補完する施策といえる。
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