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Psychiatric Lecture

成因・危険因子 認知症の有病率・発症率と危険因子

―久山町研究より―

二宮利治

精神科臨床 Legato Vol.5 No.2, 18-23, 2019

─すでによく知られていますが,久山町研究とはどのような研究か今一度ご紹介をお願いします。
久山町研究は,1961年に福岡県久山町の40歳以上の全住民を対象に,脳卒中の実態解明を目的として始まって以来,58年間続いている前向きの追跡(コホート)研究です1)。研究開始当時,脳卒中はわが国の死因の第1位を占めていました。なかでも,脳出血による死亡率は脳梗塞による死亡率の12.4倍と欧米に比べて著しく高く,欧米の研究者からは日本人医師の診断習慣を指摘されるほどでしたが,その指摘を検証するための科学的データはありませんでした。そこで,当時の九州大学医学部第二内科教授の勝木司馬之助先生は,年齢・職業構成および栄養摂取状況などがわが国の平均レベルで推移し,日本人の標準的なサンプル集団といえる久山町住民を対象に,脳卒中病型別死亡率を正確に把握するための研究を開始しました。CTやMRIなどの画像診断技術がまだ発達していない当時では,脳卒中の病型別死亡率を正確に把握するためには,お亡くなりになった方を剖検することが必要でした。剖検の実施については,研究当初より現在の九州大学大学院医学研究院病理病態学,形態機能病理学の全面的な支援を得てきました。
以後,本研究は久山町の地域住民および町長をはじめとした行政関係者,地元開業医などの医療スタッフからの多大なる協力を受けながら,5代の教授にわたり継承され,主任研究者も4名の先生から私へと引き継がれてきました。その間,九州大学の精神科神経科,心療内科,循環器内科,呼吸器内科,眼科,予防歯科などから大学院生や若手研究者が参加するようになり,研究課題は脳卒中のみならず,虚血性心疾患,高血圧,糖尿病,慢性腎臓病,認知症,心身医学,眼科,歯科など多方面に広がるとともに,研究の奥行きも深まってきました。2002年からはゲノム疫学研究が始まったことをきっかけに,東京大学医科学研究所や理化学研究所など他大学・研究施設や民間企業との共同研究も始まっています。
同研究の最大の特徴は,①これまでに追跡不可能となった対象者はわずか数例と追跡調査の精度が高く,追跡率は99%以上であること,②5年に1度の研究スタッフによる健診・往診の受診率は70~80%と高く,選択バイアスが低いこと,③正確な死因を知ることができる剖検率が75%と高いことです。

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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