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Trends in Psychiatry

書籍『精神医学の概念デバイス』

村井俊哉

精神科臨床 Legato Vol.5 No.1, 50-53, 2019

私が入局した1991年頃,精神分析学や精神病理学などの難解な書物を読み漁り,「人間の心の奥深いところを科学だけで割り切れるものか」といった発想をもつような,いわば文系の風潮が精神科にはありました。こういった他科とは異なる精神科の状況に対して,当時の私は「はたしてこれでいいのだろうか?」と疑問を抱いていました。その後,脳科学が大きく進歩した現在,精神医学は医学の一分野として理系の学問となり,精神疾患の治療だけでなく学校や職場との連携など非常に現実的なことも行うため,以前のような精神科医の特殊さは薄れてきたように思います。しかし私は,そうした現状にもまた疑問を抱き,「精神医学はわかりづらく難解で混沌とした部分をもつものなのではないか?」と考えているのです。
この精神医学の難解な部分を避けず,無理にわかりやすくすることもなく,難しいままに精神医学を考えてみるというスタンスで過去に執筆したものが『精神医学の実在と虚構』と『精神医学を視る「方法」』で,今回も同じスタンスで臨みました。本書『精神医学の概念デバイス』では,過去の精神医学に回帰するのではなく,現在精神医学の中心となった理系の発想とかつての文系の発想をかみ合わせることによって,精神医学のもつ混沌を整理しようと試みました。

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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