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Culture in Psychiatry

人は棲家の喪失に落ち込み,そして戦う─砂と霧の家─

小澤寛樹

精神科臨床 Legato Vol.2 No.2, 46-47, 2016

人はなぜこれほどまでに「土地」や「家」に固執する生き物なのでしょうか。スイスの精神科医ヨハネス・ホウファー(1662~1752年)は,故郷へ戻りたいと願うが二度と帰れないかもしれないという恐れを伴う心の痛みを「nostos(帰郷)」と「algos(心の痛み)」という2つのギリシャ語からノスタルジアと名付けました。郷愁病とも訳されるこの病気は,当時ヨーロッパ各地の最前線で戦うスイス兵の間で蔓延し大きな問題となりました。ノスタルジアに憑りつかれた兵士たちは生きて故郷を見たいという一心で他の何も手につかなくなり,たちまち無気力状態に陥ってしまいます。しかも味方の旗色が悪いときほど伝染力を増すたちの悪い病だったようで,決死の戦いに臨まんとする指揮官にとっては頭の痛い問題でした。

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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