近年,うつ病や双極性障害などの気分障害における認知機能障害が注目されている。認知機能障害は患者の日常生活や社会機能に影響を及ぼし,症状寛解後にも認知機能障害が残存する場合は再燃・再発のリスクも高くなることが懸念される。そこで,気分障害における認知機能障害に対してどのような観点・手法によるアプローチが望ましいのか,エキスパートの先生方にご討論いただいた。
「はじめに」
住吉:本日は「気分障害における認知機能障害」について,気分障害の研究と臨床の最前線でご活躍されている先生方とともに議論を展開していきたいと思います。統合失調症では認知機能の領域(ドメイン)のうち「精神運動速度」,「言語性記憶」,「注意」,「言語流暢性」,「視覚構成記憶」,「実行機能」が健常者と比較して低下しています。双極性障害においても,統合失調症よりも軽度ですが,同様の認知機能領域の障害が報告されています(図1)1)。また,統合失調症認知機能簡易評価尺度(Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia ; BACS)を用いた評価によっても,統合失調症と双極性障害とに共通した認知機能の低下が示されています2)。