――本書では精神医学の最近の話題についてさまざまな角度から取り上げておられますが,先生はそもそもなぜ精神科をご専門に選ばれたのでしょうか。
精神科を選んだことに特段深い考えがあったわけではありません。メジャーな診療科よりもマイナーな診療科のほうが自分に合っているような気がしたのです。精神科のほかに神経内科や皮膚科も考えましたが,なかでも精神科はまだ明らかになっていないことが多く,医師がそれぞれに異なる考え方をもって議論や診療を展開していることから最も混沌としているようにみえました。長く携わる仕事としてはそのほうがやり甲斐があるのではないかと思い,精神科を選びました。入局した京都大学の精神医学教室は,伝統的に精神病理学が引き継がれていたので,文系に軸足を置いて精神医学を勉強しました。同期の仲間や先輩たちと日曜日に集まって,精神医学の古典といわれる本を日本語訳ではなく原文で読む読書会を行ったりしていました。