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Theme 新しいドラッグデリバリーシステムによる抗悪性腫瘍薬 Learn more from previous clinical trial

食道がんに対するペムブロリズマブのランダム化第Ⅲ相臨床試験(KEYNOTE-181)の結果はnegativeか,positiveか?

南博信

がん分子標的治療 Vol.19 No.2, 109-112, 2022

免疫チェックポイント阻害薬が各種がんに対して有用性を示し,多くのがんの治療体系が変わった。多数の製薬企業が免疫チェックポイント阻害薬を開発しているため開発競争が激化し,本来であれば第Ⅱ相臨床試験で探索的に有効性を評価し第Ⅲ相臨床試験で検証するところを,第Ⅰ相臨床試験で拡大コホートを置いて第Ⅱ相臨床試験を省略したりし,当該の薬剤の有効性に関するデータがなくても他社の類薬の情報に基づいて検証的臨床試験を開始しようとしたりする製薬企業もある。また,がんゲノム医療に基づいて希少なサブタイプに対して抗悪性腫瘍薬を開発する事例も出現した。これらの変化に対応するために,新たな『抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドライン』が2021年3月に厚生労働省から発出された1)-3)。しかし,このガイドラインにおいても,忍容性・安全性ならびに薬物動態を評価し推奨用法・用量を決定した後に,有効性および安全性を探索的に評価し,従来の標準的治療と臨床的有用性を比較する,という方針は従来と変わりない。
ペムブロリズマブの食道がんに対する開発では,KEYNOTE-180試験として高度の前治療歴を有する患者を対象とした第Ⅱ相臨床試験が実施され4),二次治療としてペムブロリズマブと担当医選択治療を比較したKEYNOTE-181試験が実施された5)。第Ⅱ相臨床試験の結果に基づいて第Ⅲ相臨床試験が実施されたかのようにみえるが,第Ⅱ相臨床試験は2016年1月12日~2017年3月21日に症例が登録され,第Ⅲ相臨床試験は2015年12月8日~2017年6月16日に症例が登録されているので,むしろ第Ⅱ相臨床試験より第Ⅲ相臨床試験が先に開始されていたことになり,臨床開発の戦略に倫理的な懸念が生じる。このように熾烈な開発競争のなかでKEYNOTE-181試験が実施され,ペムブロリズマブは全生存期間(overall survival:OS)を延長させたとpositiveな結果として報告された5)。しかし実際はこの試験の結果は,negativeである6)。なぜこのようなことが起きてしまったのだろうか。

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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