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Theme 新しいドラッグデリバリーシステムによる抗悪性腫瘍薬 Round Table Meeting

最新の免疫腫瘍微小環境の理解とADC,DDSの革新的イノベーション

戸井雅和Giuseppe Curigliano松村保広石田竜弘

がん分子標的治療 Vol.19 No.2, 47-55, 2022

がんの分子生物学的な研究から,多くの標的が発見され,その一部は治療薬として開発されている。従来の抗がん剤や免疫チェックポイント阻害薬との併用も試みられている。しかし十分な治療効果が得られない場合があり,その背景には,腫瘍内に血流が少なく低酸素状態にあることや酸性下であること,あるいは間質が多いことなど,薬物の送達や免疫応答を妨げる環境が存在する。そのため腫瘍内の微小環境を改善し,治療効果を高める試みが熱心に進められてきた。
抗VEGF抗体などの血管新生阻害薬は,腫瘍内の血管系の正常化に作用すると考えられ,すでに各種がんでICIとの併用により有効性が報告されている。がん周囲の酸性下に対しては,pHを調整することで,抗腫瘍効果を高めることが検討されている。またがん間質に特異的に検出される物質をターゲットしたドラッグデリバリーシステム製剤も開発されている。
昨今,DDS製剤として最も注目されているのが抗体-薬物複合体である。乳がん領域ではHER2陽性例に対して第1世代ADCが使用され,第2世代ADCの高い効果にも期待がされる。今後ADCの使用は拡大し,がん治療を大きく変えるとみられている。ADCの開発およびDDS技術の進歩によって,腫瘍内の微小環境の理解もさらに深まってきている。

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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