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乳がんに対するCDK4/6阻害薬の意義

大竹洋平清水千佳子

がん分子標的治療 Vol.16 No.2, 102-105, 2018

正常な細胞周期はG1→S→G2→M期と,間期を挟むかたちで染色体複製を行うS期と娘細胞への染色体分配を行うM期が規則的に繰り返されることで進行する。細胞に各種ストレスが生じてその機構が適切に働かない場合,たとえばG1期において何らかの理由により染色体DNA鎖の切断が生じた場合には,DNA修復蛋白が誘導され染色体修復が優先されるが,その間,細胞周期はG1期に留まり,染色体修復の完了を待ってS期に進行する。こうした細胞周期の段階的な調整をチェックポイント機構と称し,上記の例ではG1/Sチェックポイントが機能していることとなる。チェックポイント機構においてサイクリンとサイクリン依存性キナーゼ(cyclin-dependent kinase;CDK)は主要な制御因子である。
サイクリンとCDKは複合体を形成し,細胞周期調整に係る複数の下流因子のリン酸化を制御する。哺乳類においてサイクリンは約20種類程度が知られ,それぞれが細胞周期の特異的な局面に係り,複合体を形成するCDKが異なる。G1/Sチェックポイントに係る主要なサイクリンの1つがサイクリンDであり,サイクリンD1,サイクリンD2,サイクリンD3の3種類が存在する。サイクリンDはN末端側にRb(retinoblastoma tumor suppressor protein)結合ドメインを有しており,C末端側にはリン酸化を受けるとプロテアソーム依存性分解へと導くPESTドメインが存在する。各種分裂刺激因子(マイトジェン)に細胞が曝露されると,サイクリンDはCDK4またはCDK6と複合体を形成し,Rbをリン酸化して分解へ導くことでG1/Sチェックポイントを解除して細胞周期を進行させるが,その働きは活性化したCDKによりPESTドメインがリン酸化されることでサイクリンDが分解され収束する。こうした機構により各サイクリンの細胞周期における時期特異的な一過的活性化が担保され,それらのカスケードによって細胞周期が進行する。サイクリンD1,CDK4,CDK6はヒト成体においても全身性に発現が認められる因子であり,その発現は必ずしも乳がん特異的ではないという点において留意が必要である。
乳がんにおいては,約20%の症例でサイクリンD1遺伝子増幅を認め,約50%の症例でサイクリンD1蛋白の高発現があるとされる1)。こうした傾向はホルモン受容体陽性ヒト上皮成長因子受容体(HER)2陰性乳がんにおいて顕著である。乳がんに対するCDK4/6阻害薬はこうした量的差異を標的とした治療であると理解される。また,Rbの機能喪失遺伝子変異を有する症例ではCDK4/6阻害薬の効果が低下する可能性がある。

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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