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進展型SCLCに対するPCIの意義
がん分子標的治療 Vol.16 No.2, 98-101, 2018
小細胞肺がん(small-cell lung cancer;SCLC)は,初回化学療法や放射線治療への感受性は非常に高いが,血液脳関門の存在により,化学療法後においても高頻度に脳転移が出現する1)。SCLC患者における脳転移の高い罹患率から,予防的全脳照射(prophylactic cranial irradiation;PCI)の有用性が検証されてきた。切除不能な限局型SCLCに対しては,標準治療である根治を目指した化学放射線療法2)3)が行われ,その奏効例にはPCIが推奨されているが,これは,Aupérinらから報告されたメタ解析の結果によるものである4)。彼らは,1977~1995年までの7つの臨床試験登録例のうち,完全奏効(CR)症例987例を解析対象として,PCIが,3年累積脳転移発症割合を58.6%から33.3%へと有意に低下させ,3年全生存割合(OS割合)を15.3%から20.7%へと有意に改善させること(相対リスク0.84,95%信頼区間(CI):0.73~0.97,p=0.01)を報告した。本メタ解析に含まれる集団の86%が限局型SCLCであったことから,限局型SCLCの奏効例でPCIが推奨されている。ただし,本メタ解析のCRは胸部単純写真のみの評価例が含まれることや,脳転移の有無の評価も不十分であることが問題点として挙げられ,進展型SCLCに対するPCIの意義まで明らかにすることはできなかった。2007年に欧州癌研究治療機関(EORTC)のSlotmanらによって,初回治療で腫瘍縮小を認めた進展型SCLC症例に対するPCIが,OS中央値を約1ヵ月延長すること(6.7ヵ月 vs. 5.4ヵ月,p=0.003)が報告された5)。しかし,EORTC試験でも,画像評価の規定をはじめとした試験デザインの問題が指摘されていたため,日本において,進展型SCLCに対するPCIの意義を再検証する第Ⅲ相臨床試験が計画された6)。本試験は,試験開始前に規定されていた163例が登録された時点での中間解析の結果,PCI群のOSが経過観察群を上回る可能性はきわめて低いことが明らかになり,無効中止となった。これを受けて,日本のガイドラインでは,進展型SCLCに対するPCIは推奨されていない。本稿では,過去の臨床試験デザイン・結果を考察し,進展型SCLCに対するPCIの意義について概説する。
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。