KRAS変異は最も早期に発見されたがん遺伝子であるが,確立した個別化療法は今日になっても明らかでない。われわれはKRAS変異を有する肺がん細胞において上皮間葉転換(EMT)の表現型に基づいた新たな治療標的を明らかにした。上皮系マーカーが陽性の腫瘍細胞ではERBB3が,間葉系マーカーが陽性の腫瘍細胞では線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)1が,それぞれMEK阻害薬投与時にフィードバック機構により活性化することで下流シグナルを再活性化していた。MEK阻害薬と各々に対する受容体型チロシンキナーゼ阻害薬を併用することで,in vitroでアポトーシスを誘導し,in vivoのゼノグラフトモデルにおいて腫瘍の縮小が得られた。EMTの表現型に基づいたMEK阻害薬と受容体型チロシンキナーゼ阻害薬の併用療法はKRAS変異肺がんに対する新たな治療戦略になりうる。
「KEY WORDS」KRAS変異,MEK阻害薬,上皮間葉転換