Cancer biology and new seeds
分岐鎖アミノ酸代謝のリプログラミングによるがん進行の制御
がん分子標的治療 Vol.16 No.2, 63-68, 2018
がん細胞では,ATP産生経路や脂質・核酸合成,アミノ酸代謝などの細胞内代謝経路が正常細胞とは異なる代謝様式を示すことが知られている。この「代謝リプログラミング」現象は,がん化の結果生じる付随現象ではなく,がん化を誘導する原因そのものであることが近年明らかになってきた。筆者らは,分岐鎖アミノ酸アミノ基転移酵素(BCAT)1が,分岐鎖アミノ酸(BCAA)の産生促進を介して慢性骨髄性白血病(CML)の悪性化に働くことを発見した。また,BCAT1の遺伝子発現は病期進行に伴って上昇し,その機能を阻害すると未分化型細胞が減少して白血病による死亡率が低下することを明らかにした。この発見は,がんの悪性化がBCAA産生亢進をもたらす代謝リプログラミングによって直接制御されることを示している。同時に,BCAT1経路の機能的重要性から,この経路が白血病の病期進行を遅延・阻止する新規治療標的となりうることが示唆された。BCAT1はCML以外の腫瘍の維持においても重要であることが最近報告されており,アミノ酸代謝経路のリプログラミングは,さまざまながん種において保存された悪性化における重要な経路であることが考えられる。
「KEY WORDS」代謝リプログラミング,分岐鎖アミノ酸(BCAA),がん進行(悪性化),BCAT1,がん幹細胞
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。