Cancer biology and new seeds
インテグリンα10による粘液線維肉腫形成の促進
がん分子標的治療 Vol.16 No.2, 54-57, 2018
粘液線維肉腫(MFS)は,頻度の高い中葉由来の悪性軟部腫瘍で,一部の悪性度の高い腫瘍では局所および遠隔転移を起こし,血行播種による主に肺への転移が致死的となる。複雑かつ広範な染色体変異を特徴としており,悪性化促進分子の同定を困難にしている。64例の腫瘍検体において遺伝的解析と臨床経過との相関関係を検索した結果,インテグリンα10をコードするITGA10が,がん死亡および転移のリスクと最も高い相関関係を示す遺伝子として見出された。患者腫瘍検体由来の細胞株を用いた実験により,インテグリンα10は肉腫細胞の増殖と生存のために不可欠な腫瘍依存因子であることがわかった。インテグリンα10は,染色体5番短腕上で増幅されているがん遺伝子蛋白質TRIOとRICTORとの結合によってRAC/PAK経路とAKT/mTOR経路を活性化し,腫瘍細胞生存のシグナルを伝達していた。RAC阻害薬(EHop-016)とmTOR阻害薬(INK128)の治療により,マウスの異種接種腫瘍および肺転移腫瘍の増殖抑制効果が示された。以上より,インテグリンα10のシグナル経路が,MFSの新たな治療標的となりうること,また転移のリスクを示唆するバイオマーカーとして注目すべきであることがわかった。
「KEY WORDS」粘液線維肉腫,インテグリンα10,TRIO,RICTOR,RAC
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