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双極性障害の最新の病態仮説について教えてください
DEPRESSION JOURNAL Vol.10 No.3, 18-19, 2022
双極性障害において,伝統的な仮説といえば,モノアミン仮説である.抗うつ薬でモノアミン(セロトニン,ドーパミン,ノルアドレナリン)が増加し,抗躁作用をもつ抗精神病薬がこれらのモノアミンの阻害薬であることから,疑いのない仮説であったが,遺伝学ではあまり支持されていない.リチウムの作用機序(イノシトールモノフォスファターゼ阻害)に基づくイノシトール仮説や,症状・経過に基づくサーカディアンリズム仮説についても多くの研究があるが,これらも網羅的な遺伝学的な研究で支持されているとはいえない.
一方,最近の遺伝学的研究で注目されているのが不飽和脂肪酸仮説である.これは,日本人における約3,000名のゲノムワイド関連研究において,初めてFADS1/2(Fatty Acid Desaturase 1/2)との関連が見出され1),これが多数例の欧系人でも確認されたことによる2).FADS1とFADS2は11番染色体上に隣接して存在する遺伝子で,いずれもDHA(ドコサヘキサエン酸),EPA(エイコサペンタエン酸)やアラキドン酸などの不飽和脂肪酸の代謝に関わっている.双極性障害はその活性低下と関連していると考えられる.以前より,双極性障害にDHAやEPAが有効であるという説があったことから特に注目されるが,FADS1/2の活性低下がどのように双極性障害の遺伝的リスクを高めるかについては研究の途上である.
現在,最も注目されている双極性障害の病態仮説といえば,細胞内カルシウム仮説である.これは,双極性障害患者では,血液細胞でカルシウム濃度が高いこと,リチウムがイノシトール系への作用を介して細胞内Ca²⁺シグナルに影響することなどから提唱されていた.最近のゲノムワイド関連研究2)およびトリオ家系によるエクソーム解析3)で,いずれも見出された遺伝子の中にCa²⁺チャネルなどの細胞内Ca²⁺濃度調節に関わる遺伝子が有意に多いことが示されたためである.
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。