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アルコールと芸術

②絵画(第2回)

高橋龍太郎

Frontiers in Alcoholism Vol.10 No.1, 6-7, 2022

手元にフランシス・カルコ著『モンマルトルの画家ユトリロ:伝説と生活』(古川達雄 訳)という函入りの単行本がある。原著は1928年(昭和3年)にユトリロがレジオン・ドヌール五等勲章を受けた年に刊行されたものだが,翻訳本は1941年(昭和16年)4月20日付二見書房刊になっている。昭和16年といえば12月には太平洋戦争が勃発した年である。大戦直前の緊迫した雰囲気のなかでも,日本にはいまだパリへの憧憬がうかがえる。1920年代,エコール・ド・パリと呼ばれたパリのアートシーンには,ローランサン,ユトリロ,モディリアーニ,シャガールら近代絵画のほとんどの才能が蝟集していた。しかも,その単行本には「高英男1953.4.13」との署名があり,戦後日仏のシャンソン界で大活躍した高英男がパリから一時帰国した1953年に購入したという来歴がわかる。日本人のエコール・ド・パリ好きを物語るエピソードだろう。

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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