特集 AGEsと女性医療
4 AGEsと不妊症
WHITE Vol.7 No.2, 29-38, 2019
多囊胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome:PCOS)の主たる病因はinsulin resistance(IR)である1)と発見されて以来約30年,筆者は不妊治療の現場で不妊症と糖尿病の類似性をさまざまな面で経験した.そのため筆者は今では,不妊症の多くは多くの生活習慣病と同様にIR syndromeに属していると確信している.
IR syndromeでは,IRが活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)を増加し,終末糖化産物(advanced glycation end-product:AGE)の生成を促進する.AGEは,直接的にも,またAGE受容体(RAGE)を介して間接的にも,IRおよびROS産生を増悪する.またROSもIRを増加する.こうした多重の悪循環が,IRによるエネルギー代謝不良とAGEによる諸種タンパク質の機能障害を加速し,細胞・組織・臓器の機能障害をきたし,病状を出すことになる2)3).さらに糖尿病では,IRに対する代償性インスリン分泌増加の末,インスリン分泌能低下が始まると,血糖上昇をきたし,さらにAGE蓄積が加速する2).高脂血症,renin-angiotensin system亢進もAGE形成を促進し,逆にAGEはこれらを増悪するため,細胞・組織障害はますます加速する2).
筆者は2005年頃よりAGE蓄積と生殖補助医療(assisted reproductive technology:ART,体外受精や顕微授精などの高度生殖医療を意味する)の治療成績との関連を検討し,AGEが不妊症と深く関連することを見い出した4).またその新知見から卵巣機能障害に対するAGE低下による新しい治療法を考案し,試みた4-6).本稿では,不妊症におけるAGEの意義をまず概説し,次に筆者の研究成果について述べることとする.
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