<< 一覧に戻る

糖尿病専門医に役立つ臨床トピックス

糖尿病専門医から神経内科医に聞きたいこと―糖尿病と認知症―

羽生春夫

Diabetes Horizons ―Practice and Progress― Vol.3 No.2, 32-36, 2014

超高齢社会となったわが国では,認知症は今後より一層大きな問題となることは間違いない。糖尿病は血管性認知症(vascular dementia:VaD)の危険因子とみなされてきたが,最近ではアルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)の発症・進展にも大きく関与していることがわかってきた。今号では,認知症を糖尿病の慢性合併症の1つとして捉え,糖尿病患者における認知症の早期発見の重要性を指摘されている認知症専門医の羽生春夫先生にお話を伺った。

65歳以上の4人に1人が認知症および認知症予備軍

―わが国における認知症の現状についてお聞かせください。
 現在,わが国における認知症患者の数は,65歳以上の高齢者人口の15%と推計されています 1)。2012年時点の高齢者数3,079万人から計算すると認知症者数は約462万人にのぼり,また認知症の前段階である軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)者も400万人いると推計されています 1)。MCIは2~3年でその多くが認知症に移行するとされていますので,今後わが国の認知症者数は600万人にも700万人にもなり得る状況であるということになります。
 認知症のなかで最も発生頻度が高く,半数以上を占めると言われているのがアルツハイマー病(AD)型認知症で,次に血管性認知症(VaD),レビー小体型認知症が続きます。高齢化に伴い今後,最も増加が見込まれるのはADであると考えられますが,最近ではAD型の認知機能障害を改善する新しい薬剤が相次いで登場しました。現在は3種類のコリンエステラーゼ阻害薬と1種類のNMDA受容体拮抗薬が使用できます。これらは根本的な治療薬ではありませんが,早期に投与して治療を開始すれば,その後の数年間の進行を抑制する効果が認められています。例え数年間であっても進行を抑制することは,介護者の負担を軽減する,その後の患者さんの人生設計をある程度予測することができるなど有効な面が多く,認知症は早期発見・早期治療が重要です。認知症の治療は,以前までは精神科や一部の神経内科が中心となって行っていましたが,認知症患者の増加を受け,認知症専門医のみならず身体疾患を診る医師と併せて治療していくことが望ましいと考えられるようになってきています。

糖尿病はVaDのみならずADのリスクでもある

―糖尿病と認知症リスクの関係について教えてください。
 今日において糖尿病と認知症は代表的なcommon disease(ありふれた疾患)であり,過去10数年の研究から,糖尿病は認知症の重大な危険因子であることが知られるようになってきました。オランダのロッテルダム研究では,糖尿病があるとADを1.9倍発症しやすくなり,認知症全体も2.0倍発症しやすくなることが報告されました 2)。わが国の久山町研究でも,糖尿病があると,ない場合に比べてADの発症は2.18倍高くなり,VaDは2.77倍発症しやすいことがわかっています 3)。
 当院でも糖尿病・代謝・内分泌内科に通院中の65歳以上の糖尿病患者240例を対象とした調査を2011年に実施しています。対象は担当医がおそらく認知機能障害はないだろうと考えていた患者さんでしたが,認知機能検査を行ったところ実に37.1%にMMSE(mini-mental state examination)27点以下の認知機能低下を認めました(図1)4)。

しかもそのうち5%はMMSE 23点以下の認知症と認められる状態だったのです(図1)4)。つまり糖尿病外来には多くの認知症患者が潜在しており,診断も治療もされていない状態にある可能性が考えられます。また本調査の認知症合併例を詳しく調べると,VaDよりもADの方が多くみられました。

―糖尿病患者さんの認知症合併例ではVaDが多いというイメージがありましたが,ADも多いのですね。
 糖尿病は確かにVaDとの関連が注目されてきましたが,VaDばかりではなくADの病因や病態にも深く関与していることが明らかになってきました。糖尿病における認知機能障害の発生機序は複雑ですが,大きく3つに分けて考えられます。1つ目は動脈硬化を基盤とする脳血管性病変の進展によるものです(図2,①②)5)。

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る