<< 一覧に戻る

Meet the Expert 巻頭インタビュー

植木浩二郎先生(東京大学大学院医学系研究科分子糖尿病科学特任教授)

植木浩二郎松本道宏

Diabetes Horizons ―Practice and Progress― Vol.3 No.2, 4-8, 2014

人間を科学することに魅力を感じシグナル伝達経路解明の研究に着手
松本 本日は植木浩二郎先生にこれまでの研究の歴史を伺い,若手の先生方に激励のお言葉をいただきたいと思います。まずは先生がどのような幼少時代や学生時代を過ごされ,医師になられたのかについてお聞かせいただけますか。

【語り手】植木 浩二郎 先生
Guest: Kohjiro Ueki
東京大学大学院医学系研究科分子糖尿病科学 特任教授

【聞き手】松本 道宏 先生
Interviewer: Michihiro Matsumoto
国立国際医療研究センター研究所糖尿病研究センター
分子代謝制御研究部 部長

人間を科学することに魅力を感じシグナル伝達経路解明の研究に着手(続き)

植木 私は長崎県の島原市で生まれ,小学校からは長崎市で育ちました。公立の中学・高校へ進学した田舎育ちの学生でした。当時は歴史に興味があり,学校のテストでは物理や数学よりも日本史のほうで高得点を取っているほどで,埋もれていた歴史を文献やフィールドワークから解き明かすことに魅力を感じ,歴史学者に憧れていました。
 最終的に医師になろうと決意したのは,技術があり経済的にも安定するので,人生における重大な場面で能動的な意思決定ができるのではないかと思ったからです。医師であれば時間にも余裕があり,歴史の勉強もできるのではないかと想像していたのですが,今から考えれば大きな勘違いをしていました。医師を志す動機としてはあまり純粋ではなかったかもしれません。ですが,歴史学・医学においても“人間”に興味があったというところは共通しているところだと思います。
松本 どのような大学生活を過ごされたのですか?
植木 大学時代に熱心だったのは本を読むことで,自然科学や歴史も含めた多くの社会科学の本を読みました。また,医学部のバレー部に入り,友人と遊んでは交流を深めていました。
松本 東京大学第三内科に入局し糖尿病領域に進まれたのには何かきっかけがあったのでしょうか。
植木 勉強より読書や部活が中心の学生生活でしたが,国家試験が近づいて集中的に勉強をしたときに,遅ればせながらあらためて医学は非常に面白いものだと気付きました。内科を選択することは先に決めていて,病気の原因を解明したいという気持ちは強くあったのですが,具体的に何を研究したいのかは定かではない状態でした。当時の東京大学は,故 尾形悦郎先生が教授,黒川 清先生が助教授であった第四内科と,髙久史麿先生が教授で矢﨑義雄先生が講師であった第三内科が臨床・研究ともに素晴らしいと人気が高く,スターの先生がたくさんいらっしゃいました。私は最初に第四内科を選択して研修し,尾形先生をはじめ多くの先生方に熱くご指導いただき,その後に回った第三内科では血液疾患・循環器疾患・糖尿病など内科学の面白さを実感しました。当時はシグナル伝達という新しい領域の勃興期にあたり,第三内科にはインスリン受容体にチロシンキナーゼが内在することを発見された春日雅人先生が研究室を主宰されていました。私なりに細胞内のシグナル伝達経路を解明することが様々な生命現象を解き明かすことになり,その学問をリードされるのが春日先生であろうと考え,春日先生の研究室を希望しました。その頃は糖尿病が現在ほどは問題視されておらず,使用できる薬剤もインスリンとSU薬くらいでしたので,糖尿病という疾患そのものに強く惹かれたというよりも,糖尿病を1つのモデルとして様々な生命現象を解き明かす研究をしたいという思いでした。
松本 当時はやはり大変忙しく研究をされたのですか。
植木 現・富山大学教授の戸邉一之先生のもとで研究するように命じられたのですが,戸邉先生はとにかく1日中実験をしておられました。目上の先生が帰らないうちは帰れないと思いましたので,かなりのハードワーカーだったことは間違いないと思います。戸邉先生には多くの技術を教えていただきましたが,松本先生もご存知のように戸邉先生は大変アイデアに溢れている方です。その頃の戸邉先生は現在IRS-1として知られているインスリン受容体の基質を同定する試みをなされていました。そのために何千枚というシャーレに細胞を培養したり,モノクローナル抗体を精製するなど,蛋白の研究テクニックを駆使されていました。誰も取り組んでいない非常に大きなテーマに向かってチャレンジする戸邉先生のもとで研究をさせていただけたことは,私自身の研究に対する考え方を形成するうえで大きな糧となる経験でした。

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る