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病診・院内他科連携の実際

京都医療センターにおける糖尿病足病変患者に対する診療連携の取り組み

河野茂夫

Diabetes Horizons ―Practice and Progress― Vol.2 No.4, 40-44, 2013

京都医療センターの糖尿病センターは,創設から40年以上を迎える糖尿病チーム医療の草分け的な存在である。同センターでは,欧米式のフットケアをいち早く導入し,約10年前に院内他科連携に基づくフットセンターを開設した。日本における糖尿病診療をリードしてきた同センターの他科連携の実際について,月1回行われるフットセンターカンファレンスの場にて,河野茂夫先生を中心に,各診療科の先生方にお話を伺った。

糖尿病足病変の診療にはスペシャリストの連携が不可欠

―フットセンター開設の経緯についてお聞かせください。
河野 糖尿病足病変は重症例や合併症を伴う症例も多く,糖尿病内科医だけでは管理できない面も少なくありません。そのような症例を診療してきて,糖尿病足病変の患者さんの足を救うためには他科・多職種連携に基づくフットセンターが必要であると感じ,当院の糖尿病センターをベースに欧米式のフットセンターを構築してきました。各診療科のエキスパートの先生方を集めるのはなかなか大変でしたが,2000年に糖尿病フットケア外来,2002年にフットウエア外来,2003年にフットセンター外来が立ち上げられ,ここ十数年の間に診療内容は充実してきました。
 足病変という専門領域を診療するうえでは,従来からある診療科との連携だけでなく,足病変を専門とする足病医や整形靴・装具の専門家との連携も不可欠になります。足病医については,2000年から米国で足病医専門医の資格を取得した泉有紀先生に手伝っていただくようになり,2002年からはドイツ・オーストリアの整形靴マイスターの資格をもつオーストリア人にチームに入っていただき,日本人の技師装具士と一緒にフットウエア外来で患者さんの整形靴を製作していただくようになりました。2003年からは,足病変に対する外科的手術からバイパス手術,整形靴製作まですべての領域でスペシャリストが対応可能なフットセンター外来が稼働しました。

―フットセンターの診療にはどのような特徴があるのでしょうか。
河野 基本的には,診療は各診療科に任せているのではなくセンターで総合的にあたるシステムになっています。たとえば外科手術の際に我々内科医も手術室に行きますし,手術後の管理は我々が主治医を務めることも多いです。普段からのコミュニケーションも円滑にとっており,診療科の壁が割と低いのがフットセンターの診療体制の特徴と言えます。
 最近では看護師を中心とした予防的フットケア外来に取り組む施設が増えていて,それももちろん大事ですが,重症の感染症や血流障害をおこした患者さんをいかに治療していくかに関しては,各診療科との密な連携が取れていなければなりません。糖尿病足壊疽を起こしている患者さんは,痛みをあまり感じないことも多いためぎりぎりまで放置,時間外に救急外来に来院することが少なくありません。様々な合併症を持つ患者さんも多く,容体が急変することがあるため,より全身のコントロールが必要となります。年末年始も返上でやらなければいけないこともあり,通常の血糖コントロールが中心の糖尿病診療の現場とは大きく異なるのも当センターの特徴のひとつです。

病診・院内他科連携の実際

―実際の診療科の連携はどのようにされているのでしょうか。
河野 比較的軽症の潰瘍などは最初に皮膚科を受診されることが多いですが,皮膚科では足底の胼胝などの予防的ケアも積極的にしていただいています。たとえば足底に潰瘍がある患者さんが最初に皮膚科を受診された場合,創が骨まで達していれば整形外科や形成外科の先生と併診し,血流障害がある場合は血管外科と併診することになります。可能であれば受診したその日のうちに併診してもらいます。
 救急受診されるような患者さんで,血流障害のない感染を伴う重症の神経障害性足潰瘍の場合は切開・排膿が必要になりますので,形成外科あるいは整形外科に緊急のデブリードマンをお願いすることになります。デブリードマンをした後で創の治りが悪いような場合には,形成外科で肉芽形成を促進する治療を行うこともあります。血流障害がある場合は血管外科で精査し,必要に応じてバイパス手術などを検討します。壊疽がある場合には,末梢の血流改善を試みた後で切断を検討します。
 切断に関しては,どのような場合にどのような部位で切断するというコンセンサスやガイドラインがありませんが,当然患者さんはできるだけご自身の足を温存したいと考えますし,我々もその希望に応えられるように各診療科で話し合って患者さん1人ひとりに合った最善の治療法を見つけるようにしています。また,このような重症患者さんは基本的に入院治療となり,感染症を起こしていることも多いため,その場合は抗菌薬の使用について総合内科にコンサルトします。

―他施設から紹介されてくるケースもあるのでしょうか。
河野 当センターには血管外科の浅田秀典先生のように末梢血管の難しいバイパス手術を施行できる医師もおり,近隣の病医院のみならず大学病院からもよく紹介されてきます。我々内科医が診ていても,石灰化の強い血管にバイパスして繋ぐというのは非常に難しいテクニックだと思います。もちろんそれ以外の診療科にも足病変のスペシャリストが揃っていますので,万全の態勢で紹介された患者さんを受け入れるようにしています。

―カンファレンスはどのような体制で行っておられるのでしょうか。
河野 フットセンターのカンファレンスは,糖尿病科,形成外科,皮膚科,整形外科,血管外科,総合内科に加えて,心臓が悪い患者さんも多いので,循環器内科の医師,そして皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCナース)などの看護師も含めて20名前後で行っています。重症の足病変の入院患者数は約20名で,月1回のカンファレンスで個々の症例の治療方針などについて各診療科から意見を出していただいています。
 フットセンターとは言っても足だけを診るのではなく,全身の管理が必要なことも少なくありません。そのため,関連する診療科にはフットセンターのカンファレンスにも極力参加してもらうようにしています。その他に入院患者さんの管理を行っていくうえでは,必要に応じて薬剤師や管理栄養士にも参加していただきます。カンファレンスは月1回ですが,日々の診療では毎日のように診療科を横断して協力し合っていますので,自然と連携ができていると思います。

診療連携に取り組むスタッフの声

―各診療科のフットセンターでの役割と今後の展望についてお聞かせください。
■泉 有紀先生(WHO糖尿病協力センター 米国足病医)
 私は米国の大学卒業後に大学院で足病医学を学び,米国内の医療機関で経験を積んで米国足病専門医の資格を取得しました。米国では足病医は糖尿病やスポーツ選手,高齢者などの足を診療するスペシャリストの立場が確立していて,診療においてもシステム化が進んでいます。ただ,米国ではシステム化されているがゆえに画一化した診療になりがちで,現在では当センターなど日本の施設のほうが細やかで先進的な試みもたくさん行われるようになってきていると思います。今後も米国での経験と専門性を生かしながら,各診療科のスタッフとも連携して患者さんの足を護っていきたいです。

■十一英子先生(皮膚科 医長)
 皮膚科は軽症でも患者さんが受診しやすいため,足に胼胝や潰瘍などができた患者さんが最初に受診するケースが多いです。患者さんご自身は,その足病変が糖尿病と関係あるかどうかわからないことが多いので,皮膚科で糖尿病との関連や血流障害の可能性を判断して必要な診療科に併診をお願いしています。
 糖尿病患者さんは足白癬や小さな傷から感染症を起こしやすく,神経障害により痛みに対して鈍感になっていることも多いので,予防的な意味でもハイリスクの方を継続して診ていることで,ある程度重症足病変の発症を予防できていると思います。実際に糖尿病患者さんで胼胝から潰瘍を頻発したり,足趾を数本切断していたのが,皮膚科で継続して治療するようになって潰瘍化が少なくなったこともありました。今後も重症足病変の適切な見極めと予防にもつながるフットケアに力を入れていきたいです。

■浅田秀典先生(血管外科 医長)
 糖尿病足病変の患者さんでも明らかに虚血がある方はあまりバイパス手術の判断に迷いません。しかし糖尿病があって創の治癒が悪いうえに血流が若干良くないために治りきらない方も多いので,そのような場合にバイパス手術が必要かどうかの見極めが難しく悩みどころになっているので,これからも個々の症例で十分検討していかなくてはいけないと考えています。糖尿病足病変の患者さんで足の切断を余儀なくされる場合であっても,末梢のバイパス手術を行うことで,より末梢側で切断できる可能性がありますので,今後もできるだけ患者さんの足を救済できるように努めていきたいです。

■小田垣孝雄先生(総合内科 医長)
 糖尿病足病変の患者さんでは腎機能障害がある方も多く,末梢の血流障害がある方もいますので,それらが抗菌薬を使用する妨げになることもあります。しかし,患者さんにとっても院内の感染症対策上もできるだけ短期間で感染症が治癒することが有益であると思います。私自身も,今まで勤務していた医療機関では経験できないくらい大勢の糖尿病足病変の患者さんを診る機会があり,とても勉強になっています。今後も感染症の早期治療と抗菌薬の適正使用を考えながら,主治医の先生方に有益なアドバイスをしていけるようにしたいです。

■荒田 順先生(形成外科 医長)
 形成外科では,重症の糖尿病足病変の患者さんで,主に血管外科によるバイパス手術などの血行再建をしていただいた後で,残った比較的広範囲の潰瘍の治療を担当しています。切断が必要な場合でも,患者さんは当然足をできるだけ残したいと思うでしょうから,できる範囲で希望に添えるように治療したいと考えていますが,温存したことによって新たな創ができやすくなるようなケースもあります。大変な手術をして温存してもその後すぐに新しい創ができてしまい,結局切断に至ったこともありました。それらの経験から,できる限り患者さんの“温存したい”という希望に応えながらも,切断が必要な場合の見極めもきちんと行うようにしています。

■山田 茂先生(整形外科 医長)
 私が以前まで勤務していた病院では,たとえば糖尿病の足壊疽で切断が必要だと判断されたら,あとは整形外科医の判断で切断する部位を決めてその後は整形外科医が主治医となるケースがほとんどでした。
 そのような場合には,整形外科医としてはどうしても安全なところ,あるいは早期に治癒する部位で切断したほうが良いと考えるため,足部よりもある程度上のほうの血流が確保されている部位で切断せざるを得なくなります。また,切断面を閉鎖して短期間に創を治して早期に患者さんを社会復帰させるというのが従来の整形外科医の治療目標とするところでした。
 ところが当センターの場合は,たとえば糖尿病足壊疽の患者さんに対しても各診療科のスペシャリストがいますので,末梢の血流を改善するバイパス手術や難治性の創に対しても形成外科で適切な治療をしていただけますので,結果として整形外科医単独で切断を行うよりも末梢の部位まで足を温存できるようになっています。特に下腿よりも上の大切断を余儀なくされた場合に,我々,整形外科医の出番になるわけですが,良い意味で出番が少なくなって,より末梢側で治療することが可能になってきています。現在では,血管外科や形成外科の治療が加わると,断端が開放したままでも血流さえ良ければ治癒する可能性があります。今後も他科と連携をしながらできるだけ身体的機能を残せるような手術をしていきたいです。

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