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糖尿病専門医に役立つ臨床トピックス

2型糖尿病患者に対する早期インスリン導入は有益か?

小田原雅人

Diabetes Horizons ―Practice and Progress― Vol.2 No.4, 36-39, 2013

インスリン治療の重要性と現状
―インスリン治療の重要性,インスリン導入の現状についてお聞かせください。
 2型糖尿病ではインスリンの作用不足が高血糖の原因として重要であり,高血糖による慢性の合併症の発症・進展抑制が糖尿病の治療上非常に重要と考えられます。そのため,インスリンの作用不足に対してインスリンを補う,インスリン治療は重要な治療戦略になってきます。インスリンは体内で分泌されている生理的ホルモンですから,それ自体に副作用はありません。しかし実際の治療上はインスリンが効きすぎると,低血糖のリスクが高くなってしまいます。これがインスリン治療における1つの課題です。
 また,インスリン製剤は注射薬であることから導入時の心理的障壁が高いことも問題です。そのためインスリン治療が必要だと考えられる方がなかなか早期から治療を開始できていない現状は世界中で認められます。以前われわれが行ったDAWN(Diabetes Attitudes, Wishes and Needs)JAPAN調査でも,インスリン治療に対する心理的障壁が高いという結果が出ています 1)。しかし一方でインスリン治療を導入した方の評判は比較的良く,「もっと早くインスリン治療を開始すれば良かった」という意見も多かったのです。以前のインスリン治療というと日本では,経口薬を全部中止して,できればインスリン4回打ちをしたほうが良いと一般的に言われていましたが,欧米と同様にbasal-supported oral therapy(BOT)という基礎インスリンに経口薬を上乗せする治療法が日本でも一般化してきたこともあり,インスリン治療を開始することに対するハードルは以前よりも下がってきていると思います。

インスリン治療の重要性と現状(続き)

―インスリン注射に対する患者さんの心理的障壁も下がってきているのでしょうか。
 以前に比べると注射の手技が簡便になっており,インスリン注射に使用する針もより細く・短くなり,痛みが軽減されるよう改良されてきています。これは患者さんにとってはもちろんのこと,医療者側が指導しやすくなっているという面にもつながっています。しかし,心理的障壁は依然としてあまり下がっていないかもしれません。ですが,DAWN JAPAN調査のデータでもインスリンを導入した患者さんの受け入れは良いことがわかっていますので,医師が適切な時期にインスリン導入を勧めることが重要だと思います。というのも,同じ調査で患者さんが誰の意見を最も重視してインスリン導入を決定したかを聞いたところ,最終的には主治医の言葉の影響で決定したことが多いとわかったからなのです。

―早期のインスリン導入に対する医師の意識は上がってきているのでしょうか。
 専門医の意識はある程度上がっていると思いますが,非専門医ではなかなかそこまで意識は高まっていないと思います。また専門医であっても,「注射は患者さんが嫌がるだろう」と考えてしまい,インスリン導入を必要とする患者さんに対しても二の足を踏んでいる傾向があることもわれわれの調査でわかりました。勧めてみると実際には患者さんは受け入れてくれる可能性が高いことがわかっているにもかかわらず,医師の側が勧めづらさを感じているということなのです。患者さんの注射に対するハードルが十分低くなっているわけではありませんが,医師の側が自ら壁を作ってしまっている可能性もあるのです。インスリン導入については,まず医師が理解を深め,必要であれば早期からインスリン導入の話をする,あるいは患者さんを説得することが大事だと思います。

早期インスリン導入のメリット

―早期インスリン導入にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
 早期インスリン導入のメリットは,まず早期から血糖コントロールを適切に管理できるということにあります(表)。

インスリン分泌能がかなり低下してからインスリン導入をした場合,血糖値を上げるホルモンであるカテコラミンの反応も低下しているために低血糖が起こりやすくなってしまいます。したがって,早期からインスリンを導入したほうが低血糖のトラブルが少なくなりますので,経口薬で十分な血糖コントロールが得られない場合は,できるだけ早期にインスリンによる血糖コントロールを開始したほうが良いと思います。さらに,インスリンには膵β細胞の疲弊を緩和させ,膵β細胞機能を保つ可能性があります。つまり,できるだけ早期からインスリン導入をしたほうが,中長期的な膵β細胞の保護や良好な血糖コントロールの維持,合併症の抑制という意味で非常にメリットがあると考えられるのです。

―経口薬による治療効果の見極めについてはどのように考えれば良いでしょうか?
 2型糖尿病の基本的な治療戦略として,食事療法・運動療法を行っても十分な血糖コントロールが得られなければ,経口薬をまずは1剤,少量から開始することになっています。1剤で十分な血糖コントロールができれば良いのですが,だんだんと効きにくくなる場合もありますし,診断が遅れているケースでは最初から1剤では血糖コントロールが難しい場合があります。そのような場合は1剤を低用量から徐々に高用量にしていく方法がありますが,1種類の薬剤を増量していくことは副作用の観点からも望ましくないですし,最近では増量するよりも複数の薬剤を組み合わせる治療法が一般的になってきています。ですが3,4種類の薬剤を組み合わせるとなると,患者さんの経済的負担が大きくなってしまいます。加えて,われわれが行ったALOHA試験のサブ解析では,経口薬2剤に基礎インスリンを上乗せした方が,経口薬4剤に基礎インスリンを上乗せした場合よりも空腹時血糖値の改善効果が高いことがわかりました。インスリン導入が遅れれば遅れるほどインスリンの効果が限定的になってしまい,インスリンによる十分な血糖降下作用が得られなくなってしまうため,必要となったら早期にインスリンを導入したほうが良いと思います。
 さらに最近では,基礎インスリン+インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬あるいはGLP-1受容体作動薬)を上乗せする方法によって,空腹時血糖だけでなく食後血糖を改善することも可能になってきています。基礎インスリンにDPP-4阻害薬,α-GI,グリニド薬を追加する方法もありますし,基礎インスリンをベースにしたいくつもの組み合わせの治療法ができるようになってきました。なかでも,GLP-1受容体作動薬と基礎インスリンの併用も非常に良い組み合わせだと思います。空腹時血糖値を下げる治療と食後血糖値を下げる治療法が組み合わせられることにより,非常にタイトな血糖コントロールが実現可能になります。さらに,インスリン単独の治療法に比べると低血糖が減少しますし,GLP-1受容体作動薬には体重減少効果がありますので体重増加を相殺できる組み合わせになります。また,今後上市が予定されるSGLT2阻害薬も食後血糖値を下げる効果がありますので,同様に基礎インスリンとの組み合わせに向いている可能性があるかもしれません。

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