インスリン治療の重要性と現状 ―インスリン治療の重要性,インスリン導入の現状についてお聞かせください。  2型糖尿病ではインスリンの作用不足が高血糖の原因として重要であり,高血糖による慢性の合併症の発症・進展抑制が糖尿病の治療上非常に重要と考えられます。そのため,インスリンの作用不足に対してインスリンを補う,インスリン治療は重要な治療戦略になってきます。インスリンは体内で分泌されている生理的ホルモンですから,それ自体に副作用はありません。しかし実際の治療上はインスリンが効きすぎると,低血糖のリスクが高くなってしまいます。これがインスリン治療における1つの課題です。  また,インスリン製剤は注射薬であることから導入時の心理的障壁が高いことも問題です。そのためインスリン治療が必要だと考えられる方がなかなか早期から治療を開始できていない現状は世界中で認められます。以前われわれが行ったDAWN(Diabetes Attitudes, Wishes and Needs)JAPAN調査でも,インスリン治療に対する心理的障壁が高いという結果が出ています 1)。しかし一方でインスリン治療を導入した方の評判は比較的良く,「もっと早くインスリン治療を開始すれば良かった」という意見も多かったのです。以前のインスリン治療というと日本では,経口薬を全部中止して,できればインスリン4回打ちをしたほうが良いと一般的に言われていましたが,欧米と同様にbasal-supported oral therapy(BOT)という基礎インスリンに経口薬を上乗せする治療法が日本でも一般化してきたこともあり,インスリン治療を開始することに対するハードルは以前よりも下がってきていると思います。