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SGLT・レッスン

SGLT2発見の歴史・経緯と腎臓の糖再吸収機構

金井好克

DIABETES UPDATE Vol.2 No.3, 48-55, 2013

はじめに
 グルコースは,親水性の低分子化合物であるため,腎糸球体で濾過され原尿中に現われるが,近位尿細管でほぼ完全に再吸収され,正常では尿中にはほとんど出現しない。この近位尿細管でのグルコース再吸収は二段構えで行われる1)。

近位尿細管の前半部(近位曲尿細管:S1-S2分節)に低親和性で輸送能の大きい低親和性/高容量(low-affinity/high-capacity)輸送系があり,ここで糸球体濾過されたグルコースの約90%が再吸収され,残りの約10%が近位尿細管の後半部(近位直尿細管:S2-S3分節)の高親和性で輸送能の小さい高親和性/低容量(high-affinity/low-capacity)輸送系で再吸収される(図1A,B)。

グルコースが尿細管で再吸収されるためには,尿細管上皮細胞を通過しなければならないが,その際,尿細管上皮細胞の管腔側の細胞膜(管腔側膜)と血管側の細胞膜(側底膜)を透過しなければならない(図2)。

グルコースは親水性物質であるため,疎水性の環境である細胞膜脂質二重層を通過するためには,細胞膜透過を可能にする膜タンパク質すなわちグルコースの膜透過を担うトランスポーター(輸送体)が必要となる。実際,近位尿細管の管腔側膜にはグルコースの輸送とNa+の輸送を共役させるNa+/グルコーストランスポーター(sodium/glucose co-transporter:SGLT),側底膜にはグルコースの単独輸送を行う促進拡散型グルコーストランスポーター(facilitative glucose transporter:GLUT)があり,それらが尿細管上皮細胞を介する管腔側から血管側へのグルコースの一方向性の輸送を可能にしている(図2)。
 このうち管腔側のSGLTは,尿細管におけるグルコース再吸収の律速過程を担っており,前述の二段構えのグルコース再吸収機構のそれぞれに対応する2つの異なるSGLTが近位尿細管に存在する。すなわち,近位曲尿細管のSGLT2,および近位直尿細管のSGLT1である(図1,2)。SGLT2は腎尿細管に特異的に発現し,その遺伝的欠損は家族性腎性糖尿となる1)。現在SGLT2の阻害薬が,新しい作用機序の糖尿病治療薬として期待されている。これは,腎尿細管からのグルコース再吸収を抑制し,過剰なグルコースを尿中に捨てることで血糖値を正常化して,糖毒性を軽減しようとするものである2)。本稿では,『SGLT・レッスン』シリーズの序論として,SGLT2発見の経緯と腎臓の糖再吸収機構について概説したい。

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