<< 一覧に戻る

コンサルテーション

周術期の血糖コントロール

松岡敦子本庶祥子越山裕行

DIABETES UPDATE Vol.2 No.2, 32-39, 2013

はじめに
 近年,糖尿病患者・耐糖能障害患者は増加しており,必然的に周術期血糖コントロールを要する症例が増加してきている。現在,日本における糖尿病患者数は約1,000万人程度と考えられており,入院患者の5人に1人程度は糖尿病の可能性があると考えられる。一方で,糖尿病患者の周術期血糖コントロールに関する大規模臨床研究は十分ではなく,このためコントロールの目標値や方法は,各施設・医師の経験に基づいて決定されることが多いというのが現状である。

周術期血糖コントロールの意義

 外科的侵襲が加わることにより交感神経系が賦活化され,アドレナリン,グルカゴン,コルチゾール,成長ホルモンなどのインスリン拮抗ホルモンが分泌され,また末梢性のインスリン抵抗性の亢進を生じ,「外科的糖尿病」と呼ばれる高血糖状態を惹き起こしやすくなる。また高血糖は様々な炎症性サイトカインの放出を誘導し,免疫力低下のため創部感染のリスクを増大させる。手術自体の合併症として,循環動態の変化によって起こる心血管イベントや腎機能障害などは,高血糖下では浸透圧利尿のためさらなる循環動態の悪化が起こりやすくなり,リスクが増加する。さらには,手術の侵襲により高浸透圧性高血糖症候群や糖尿病性ケトアシドーシスをきたす可能性もある。したがって,緊急手術の場合を除き,手術までに安全な手術が可能な血糖コントロールにしておく必要がある(図1)。

血糖コントロールの目安

 術前はHbA1c(NGSP)7%以上では7%未満と比較して術後感染が少なかったとの報告や随時血糖値200 mg/dL以上では感染が増加するとの報告があり1)2),血糖コントロール不良の症例には術前に血糖コントロールへの介入が望まれる。一般的な周術期の目標は電解質バランスの維持,ケトアシドーシスの予防,高血糖・低血糖の回避である。
 術後血糖をどの程度にコントロールすべきかに関しては様々な報告があり,まだ結論が出ていない。DIGAMI Studyでは,急性心筋梗塞患者においてブドウ糖とインスリンの同時注入療法によって血糖値を200 mg/dL未満に維持し得た症例では累積死亡率が28%低下した(図2)のみならず,その後平均3.5年間にわたり虚血再発や併発疾患の発症も減少したと報告している3)。

またKrinsleyらはICUに入院した800名の患者について血糖値を140 mg/dL以下に厳格にコントロールすると腎不全の誘発を25%に抑えることができ,輸血回数や入院中の死亡率・敗血症性ショックや神経疾患などの余病の発症や緊急外科手術の回数なども有意に減少し,ICUの入院期間も短縮したと報告した4)。これらの結果は画期的であったが,横断的・観察的報告に留まっており,重篤でストレスが強いほど,敗血症などの合併症が多いほど,また輸血などの侵襲的医療行為が多いほど逆に血糖は上昇しやすいため,バイアスが多く,救急救命時の予後と血糖レベルの因果関係の証明はできなかった。そこにvan den Bergheらがランダムコントロールスタディを発表した。侵襲の大きな手術を受け術後に人工呼吸管理となりICUに入室した症例では血糖値を80~110 mg/dLに厳格にコントロールした集団(強化療法群)と血糖値が215 mg/dLを超えた時のみインスリンを投与し血糖値180~200 mg/dLにコントロールした集団(従来療法群)を比較し,強化療法群では死亡率・敗血症発症率・人工透析数・人工呼吸管理期間などの各項目で有意にリスクの減少を認めたと報告した(図3)5)。

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る