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座談会(Round Table Discussion)

食後血糖の管理

綿田裕孝曽根博仁西村理明山田悟

DIABETES UPDATE Vol.2 No.1, 4-14, 2013

 食後高血糖と心血管イベントの関連については,基礎研究や疫学研究からの報告と介入試験でのエビデンスとの間にギャップがみられます。すなわち,基礎・疫学研究では両者の関連性を示す豊富なデータが存在しますが,介入試験では耐糖能異常(IGT)を対象とした臨床試験では糖尿病新規発症や心血管イベントの抑制効果が明らかにされているものの,糖尿病患者を対象とした臨床試験では食後高血糖の改善による有益性を明確に示すエビデンスは得られていないのが現状です。
 そこで,本座談会では,糖尿病診療の第一線で活躍中の4人の専門家に,そうした成績を整理していただき,得られたエビデンスを我が国の臨床現場にどのように応用していけばよいのか,話し合っていただきました。

司 会
綿田 裕孝 Hirotaka Watada
順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学教授

出席者(五十音順)
曽根 博仁 Hirohito Sone
新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科学講座教授

西村 理明 Rimei Nishimura
東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科准教授

山田 悟 Satoru Yamada
北里研究所病院糖尿病センターセンター長

食後高血糖による心血管イベントリスク―基礎・疫学研究から

綿田(司会) 本日は,「食後血糖の管理」のテーマで,食後高血糖と心血管イベントリスクに関して話し合っていきたいと思います。
 疫学研究や基礎研究では,食後高血糖が心血管系に対して悪影響を及ぼすというデータが多数あります。しかし,介入試験では,食後高血糖の抑制が予後を改善するということを完全に証明し得た試験はありません。そこで,そのようなデータを臨床にどう応用していけばよいかについて,お伺いしたいと思います。おそらくは食後高血糖による悪影響が考えられますが,特にどのような患者さんに悪いのか,早期糖尿病か,進行した糖尿病か,介入方法に問題があるのか,あるいは食後高血糖自体は全く無視すべきなのかと,様々な考えがあると思います。そのあたりについて少し踏み込んで,率直なご意見を伺いたいと思います。
 まず,西村先生から,疫学研究や基礎研究での食後高血糖と心血管イベントリスクについてのデータをご紹介いただけますか。

1.長期追跡で食後高血糖と心筋梗塞との関連を示す
西村 まず,基礎研究の成績からお示ししたいと思います。正常血糖,高血糖,血糖値が上下に変動するグルコーススパイクの3群で細胞レベルのアポトーシスを検討したRissoらのデータでは,高血糖よりグルコーススパイクのほうが血管内皮細胞のアポトーシス発現率が高いことが示されています。
 Monnierらのデータでは,2型糖尿病21例と性・年齢をマッチさせた対照群21例の計42例で検討すると,血糖日内変動幅が大きくなればなるほど尿中の酸化ストレスマーカー,いわゆる炎症が増加することが明らかになっています。
 Hanefeldらは,サロゲートエンドポイントとして内膜中膜複合体厚(IMT)との関係を検討していますが,食後2時間血糖値が高い患者さんで明らかにIMTが厚いことを示しています。
 長期間追跡して,食後高血糖の心血管イベントリスクを明らかにした成績にDIS(Diabetes Intervention Study)のサブ解析の結果があります。1996年の報告ですが,新規に糖尿病と診断された1,139例の空腹時血糖値と食後1時間血糖値を測定し,11年間追跡して心筋梗塞の発症率と死亡率を検討しています。空腹時血糖値が上昇すると心筋梗塞の発症率,死亡率の両者とも増加する傾向にありますが,有意差はありません。しかし,食後1時間血糖値が180 mg/dL以上に上昇すると,心筋梗塞の発症率も死亡率も有意に増加することがわかりました(図1)。長期間追跡した研究では,これが唯一のエビデンスだと思います。

 一方,DECODE研究(Diabetes Epidemiology:Collaborative Analysis of Diagnostic Criteria in Europe Study)は,登録時に経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を実施した検討です。欧州の一般住民を対象とした13のコホート研究のメタアナリシスで,30歳以上の約2万5,000人を平均7.3年追跡しています。OGTTの2時間血糖値が食後血糖値に近いと考えると,空腹時血糖値が高かろうが低かろうが,食後2時間血糖値が高くなればなるほど全死亡が増加することを示唆していると考えられます。

2.アジア系住民でもOGTTの2時間血糖値上昇により心血管死増加
西村 DECODA研究(Diabetes Epidemiology:Collaborative Analysis of Diagnostic Criteria in Asia Study)は,DECODE研究のアジア版として実施されたもので,日本人関連の3つのコホート研究,すなわち一般住民対象の舟形研究,日系米人または日系ブラジル人対象のコホート研究と,アジア系インド人でのコホート研究のメタアナリシスです。約6,800人が対象で,全例にOGTTを実施して平均5年間追跡しています。心血管死も検討していますが,空腹時血糖値が上昇しても,心血管死に線形トレンドは認められませんでした。しかし,OGTTの2時間血糖値が上昇すれば心血管死が高くなり,有意な線形トレンドが確認されました(図2)。DECODA研究の結果も,OGTTの2時間血糖値を食後血糖値と読み取ってよいとするなら,食後血糖値は心血管イベントおよび死亡の予知因子になると言えるのではないかと思います。

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