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その他

巻頭言

松本哲哉

感染症道場 Vol.3 No.2, 1, 2014

本号の主なテーマはワクチンである. ワクチンを取り巻く状況は大きく変化しているが, これまで国によってワクチンに対する考え方が大きく異なっていたことも, 現在のワクチンのあり方に大きな影響を与えたのではないかと思う. 振り返ってみると, 筆者が米国のボストンに留学したのが約15年前になる. オリエンテーションなどの手続きを順調に終えて, さあいよいよ実験だと意気込んでいたとき, ボスから「病院に行って感染症の確認をしてきなさい」と指示された. 言われるがまま大学病院の外来を受診し, 担当の医師に日本での接種証明書を見せて説明したが, 外国の証明書はあてにならないとばかりに麻疹など抗体価の検査を指示された. 驚いたことに, 検査結果が判明して免疫の獲得が証明されるまで, 実験はやってはいけないという決まりだという. 結局, そのためだけに10日間以上実験の開始が遅れてしまった. 感染症に対する予想以上にstrictな対応に困惑したことを覚えている. さらに娘を地元の小学校に入学させる際に, 米国の基準で接種しなければならないワクチンが3種類ほどあった. 担当の医師は特にこちらに詳しい説明もなく, まるで当然のように右腕と左腕に次々にワクチンを接種していった. 娘はその後, 熱を出して辛そうにしていたが, これもこちらでは当たり前のことだと後で教えられた. このように日本と違って米国ではワクチンによる感染症の予防は, その是非を問うまでもなく"must"あるいは"should"なのである. それは理屈というよりは, 国が信念に基づいて行っている確固たる意志であると感じられた. 現在でも個々のワクチンについては確かに未解決の問題もあり, どのあり方が本当に正しいのかは筆者もわからない. しかし, 感染症に対してブレずに強い信念をもって取り組んでいる米国の国としての姿勢は尊敬に値すると思う. 是非, 日本も長期的な視野に立って確固たる姿勢を取れるような体制を構築して欲しいと願っている.

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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