はじめに  大腸菌(Escherichia coli)は腸管内に常在する主要な菌の1つであり,われわれにとって身近な細菌である。そのため本菌による感染症に遭遇する頻度は高かったが,良好な薬剤感受性を示していたため,治療上,大きな問題となることはまれであった。しかし近年,大腸菌を含めた腸内細菌科の耐性化が進んできていることが問題となっており,治療の選択肢が狭まってきていることも事実である。さらに,腸管出血性大腸菌など病原性の高い菌による感染症は,食中毒などとして多くの患者が発生する可能性があり診断や治療の遅れがその予後を左右するが,従来とは異なるタイプの菌が出現している。このように大腸菌を取り巻く状況には変化がみられており,本菌をより詳しく知って診療に携わる必要がある。