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微生物と感染症診療

大腸菌

松本哲哉

感染症道場 Vol.2 No.3, 26-35, 2013

はじめに
 大腸菌(Escherichia coli)は腸管内に常在する主要な菌の1つであり,われわれにとって身近な細菌である。そのため本菌による感染症に遭遇する頻度は高かったが,良好な薬剤感受性を示していたため,治療上,大きな問題となることはまれであった。しかし近年,大腸菌を含めた腸内細菌科の耐性化が進んできていることが問題となっており,治療の選択肢が狭まってきていることも事実である。さらに,腸管出血性大腸菌など病原性の高い菌による感染症は,食中毒などとして多くの患者が発生する可能性があり診断や治療の遅れがその予後を左右するが,従来とは異なるタイプの菌が出現している。このように大腸菌を取り巻く状況には変化がみられており,本菌をより詳しく知って診療に携わる必要がある。

細菌学的特徴

 大腸菌はグラム陰性の通性嫌気性菌であり,腸内細菌科の菌に属している。オキシダーゼ陰性で乳糖を分解し,ガスを産生し,硝酸塩を亜硝酸塩に還元する1)。
 本菌は普通寒天培地に良好な発育を示し,便などの検体からの分離にはマッコンキー寒天培地やDHL寒天培地などが用いられる。後述する腸管出血性大腸菌 O157などはソルビトールの分解能が低下しているため,マッコンキー寒天培地の乳糖をソルビトールに置き換えたソルビトールマッコンキー寒天培地を用いると,その色調によって菌の分類が可能である(図1)。

 構造上,線毛と鞭毛を有し,運動性を有する。血清学的分類のもとになるのは,リポ多糖(LPS)の一部を構成するO抗原,鞭毛のH抗原,莢膜のK抗原であり,例えば“血清型O157:H7”という表現は,O抗原とH抗原がそれぞれどの血清型と反応したかによって決められたものである。

大腸菌の分類

 通常,大腸菌は健常人の腸管内に存在しているだけでは強い病原性は示さない。ただし,一部の大腸菌は何らかの病原性を発揮して腸管内で病原性を示す場合がある。これらは「下痢原性大腸菌」として総称され,表1に示すような5つの種類の菌に分類されている。

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