外科手術手技の実際 コツと工夫
化学放射線療法後の膵切除におけるコツとpitfall
膵・胆道癌FRONTIER Vol.7 No.1, 30-34, 2018
膵癌治療において外科的切除は唯一根治の可能性のある治療であるが,切除例の5年生存率は18.9%,生存期間中央値(MST)は21.0ヵ月と他の消化器癌と比較して低く1),満足できる成績に達していない。原因の1つとして,切除可能であったとしてもすでに微小な転移を伴っており,術後早期に顕在化し再発をきたす可能性が考えられる。また解剖学的な理由から,容易に門脈や上腸間膜動脈(SMA),腹腔動脈に浸潤をきたし,R0切除を困難にしていることも原因である。そのため,近年血管浸潤を伴った局所進行膵癌に対しては,術前化学療法,もしくは化学放射線療法後に手術を行うことで,R0切除率を向上し,また潜在的な微小転移を有する症例を除外することで成績を向上させる試みがなされている。特に膵癌取扱い規約第7版より規定されたBorderline resectable(BR)膵癌やUnresectable(UR-LA)膵癌においては,SMAや腹腔動脈周囲の神経叢浸潤部位の剥離断端陰性を得るために,当科では術前化学放射線療法を行っており,重要な役割を果たしていると考えている。
一方で化学放射線治療後は膵周囲組織に炎症が起こり,手術の際に剥離操作や脈管の同定が困難となる。もともと血管浸潤を伴った症例が対象となることもあり,特に放射線照射後のSMAや腹腔動脈周囲の剥離操作に難渋する場合がある。また胆管狭窄を伴った症例に対しては,化学放射線治療中に長期に胆道の開存を得るために,胆道メタリックステントを挿入する場合もあり,胆管周囲の炎症から術中の剥離操作が困難となる。一方,放射線治療により膵組織が炎症によりhard pancreasとなり,膵空腸吻合においては術後膵液漏が少ないといった利点もある。
われわれは2005年2月から,組織学的診断の得られたBRまたはUR-LA膵癌に対し,手術を前提とした化学放射線療法(CRT-S:chemoradiotherapy followed by surgery)を行ってきた。当科ではUR-LA膵癌であっても経過中に遠隔転移がなく,腫瘍マーカーが著減する症例,1年以上のSDが得られる症例に対しては,長期生存が得られることがあるため積極的に膵切除を施行している2)-5)。本稿では化学放射線治療後の膵切除における血管処理,神経叢郭清などを中心に,当科で行っている手術の工夫について解説する。
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