Case Study 症例検討
子どもの痛みと付き合う
~線維筋痛症と自閉スペクトラム症~
Locomotive Pain Frontier Vol.7 No.2, 30-35, 2018
子どもの「痛い」という訴えには,さまざまな意味がある。痛みは子どもの身体に何かが発生しているというサインであり,その背景には器質的要因,機能的要因,心理的要因が存在する。痛みは国際疼痛学会(IASP)で「実際の組織損傷や潜在的な組織損傷に伴う,あるいはそのような損傷の際の言葉として表現される,不快な感覚かつ情動体験」と定義1されているように,感覚(身体の痛み:病変部位の痛み)に情動(心の痛み:不快で苦痛な経験)が加わったものである。よってその評価にあたっては,「生物・心理・社会モデル」すなわち,痛みの発生に心理・社会的な要因も影響するという考え方2が必要となる。
特に子どもは心身未分化なため心身相関が発生しやすく,楽しい活動に夢中になると痛みが軽減され,不安になると痛みが増悪するように,情動の影響を受けやすい。また,子どもが痛みを訴えたときに,声かけ(大丈夫だよ),手当(痛む部位をなでる),我慢できたことを褒める(よく頑張ったね)などを行うと,子どもは痛みへの対処やコントロールを学べるが,周囲に対処してもらえないと,痛みを「繰り返し訴える」ことになりやすい。検査で異常がない,痛みを忘れて遊んでいるなどの場合,「心配ない」「本当に痛いの?」といった反応になりがちだが,痛みを認めた上で対処方法を相談することが重要である。
一方で,子どもの「痛み行動(痛みを訴える行動)」に対する周囲の反応により社会的報酬が与えられると,条件付けが発生して痛み行動が持続・強化される「学習性疼痛」2, 3にも配慮を要する。優しく保護される(家族が優しくなる),嫌なことを回避できる(宿題を免除される),子どもが抱えていた問題が消失する(不仲だった家族が,子どもの治療を介して協力する)などが発生すると,痛み刺激が減少しても痛み行動だけが強化される。この場合図2に示すように,痛みに注目しすぎる(痛みを取ることに固執する,過度の検査を行うなど)ことが痛み行動をさらに増加させるので,身体的な問題がないことを説明して,痛みがあってもできることを探すなど「対処行動」に注目することが大切である。また,「痛み行動」がなくても子どもが困っている課題に対処できるように,周囲が共に考えることが必要である。
なお,子どもは発達途上のため,痛みの表現は発達段階によってさまざまである。よって,子どもの痛みの診療においては,年齢や知的能力,性格,生活環境などを考慮して,正確にその「痛み」の原因や意味を把握することが必要である。今回は,痛みの背景に心理社会的要因の関与が大きいといわれる線維筋痛症の女児例を提示して,小児科での対応を報告する。
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。