Column オピオイドを理解する
オピオイド副作用のマネジメント―便秘―
Locomotive Pain Frontier Vol.2 No.2, 48-49, 2013
オピオイド使用に際して,最も頻度の高い副作用が便秘である。オピオイドが中枢性,末梢性に,腸管の蠕動運動を抑制し,腸管分泌を低下させることにより,便の排出を困難にする。鎮痛用量より少量で便秘が生じるので,オピオイド使用開始と同時に緩下剤を投与しなければならない。また,耐性を生じることがないので,オピオイド使用期間中は緩下剤を併用する必要がある。緩下剤には,大腸刺激性緩下剤や浸透圧性緩下剤などがあり,作用機序の異なる薬物を組み合わせて使用することが勧められる。
はじめに
癌性痛のみならず,非癌性痛にも多くのオピオイドが使用できるようになった現在,オピオイドの副作用を適切にコントロールすることが重要である。オピオイドの3大副作用は便秘,嘔気・嘔吐,眠気であり,なかでも便秘の発生頻度が最も高い1。眠気と嘔気・嘔吐は耐性が生じて次第に軽快するが,便秘に対する耐性はほとんど生じないため,服用中は便秘対策を続ける必要がある。また,鎮痛に必要な用量より少ない使用量で便秘は生じる2ので,オピオイド服用開始と同時に便秘対策を始める必要がある。
オピオイドにより便秘が生じると,糞便が長時間腸管内にとどまり,便が硬くなり,排便回数が減少する。その結果,食欲不振,悪心・嘔吐,腹痛,腹部膨満が生じ,ときには,混乱(高齢者)や宿便,イレウスになることもある。
モルヒネ,オキシコドン,コデインによる便秘発症率はほぼ100%である。フェンタニルでは,低用量では比較的便秘を起こしにくいが,高用量では便秘になる確率が高くなる。フェンタニル貼付剤では腸管への直接作用がないので,便秘の副作用が軽度である。ブプレノルフィン,トラマドール(トラムセット®においても便秘対策は必要である。一個人内では,オピオイド使用量が増えると便秘も強くなる傾向がある。
オピオイドによる便秘の発生機序
オピオイドが中枢神経系あるいは腸管粘膜下神経叢に作用して,腸分泌の抑制,腸蠕動運動の低下をきたす。また,オピオイドが吸収される際の腸管壁への直接作用もある。
①胃に対する作用:胃の運動を減少させ,胃内容物の排出時間を延長させる。
②十二指腸に対する作用:十二指腸における腸液の分泌を低下させ,内容物の粘稠度を高める。
③小腸に対する作用:小腸の蠕動運動を抑制し,内容物排出時間の遅延を招く。
④大腸に対する作用:大腸の輪状筋を収縮させて蠕動運動を抑制する。腸内容物の通過が遅延し,便が脱水を起こし硬化する。
⑤肛門括約筋に対する作用:肛門括約筋の緊張を高め,便の排出を困難にする。
オピオイドによる便秘の治療3
オピオイド服用開始と同時に緩下剤の服用を開始し,オピオイド服用中は継続する。腸管からの水分吸収を抑制して便の硬化を防ぐ浸透圧性緩下剤と,腸管蠕動運動を亢進させる大腸刺激性緩下剤の組み合わせが効果的である。多めの水分とともに服用するよう指導する。緩下剤の必要量は,個々人で異なるので,排便の回数や便の硬さをみながら,こまめに調節する必要がある。例えば,排便の回数が多すぎれば大腸刺激性緩下剤の服用量を減らす,あるいは,便が硬ければ浸透圧性緩下剤を増量するという具合である。排便習慣は,個体差が大きいが,個人の従来の排便状態になるようコントロールするのがよい。
表4に示すように,大腸刺激性緩下剤として,センノシドやピコスルファートが,浸透圧性緩下剤として塩類下剤であるマグネシウム製剤または糖類下剤が用いられる。
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