<< 一覧に戻る

Special Article 総説

ワシントン州における慢性疼痛治療の実際

渡邉和之矢吹省司

Locomotive Pain Frontier Vol.2 No.2, 26-30, 2013

今回,ワシントン州シアトルで,慢性疼痛の治療について研修する機会を得た。1ヵ所目は,University of Washington のCenter For Pain Reliefで,慢性疼痛に対する外来診療の実際を見学した。2ヵ所目は,労務災害による腰痛患者の治療に特化したリハビリ施設であるRehabilitation Institute of Washingtonである。本稿では研修内容について報告する。

はじめに

 ワシントン州シアトルに位置するワシントン大学は,世界ではじめて学際的痛みセンターを設置した,いわば現代における疼痛治療の礎を築いた場所である。2012年2月5日から2月9日の期間に,ワシントン大学のペインセンターとシアトルにある私立のリハビリ施設を見学する機会をいただいた。愛知医科大学の牛田教授,井上先生,理学療法士の森本先生,井上先生,それと私の5名での研修であった。ワシントン大学ではCenter For Pain Reliefで外来診療,カンファランス,侵襲的な治療として脊髄刺激電極による治療を見学した。Rehabilitation Institute of Washingtonでは,労災による慢性腰痛患者に対して系統的に計画されたリハビリプログラムを見学した。今回の研修内容について報告し,米国における慢性疼痛治療について考察する。

University of Washington(UW)Center For Pain Relief

1.施設概要
 UW medical centerは,世界ではじめての学際的痛みセンターが1961年に設立された場所である。急性痛と慢性痛の診断,研究,および治療について,世界のモデルとなってきた現代の痛み治療の原点といえる。われわれは,シアトルのRoosevelt通りにあるUW medical centerのクリニックであるCenter For Pain Reliefを見学した(図1)。

紹介された慢性疼痛と急性疼痛の患者を診療しているクリニックであり,慢性疼痛患者に対する検査治療から,急性痛に対するブロック療法なども行っていた。内科医,麻酔科医,精神科医,看護師,薬剤師,理学療法士,およびケースワーカーなど多職種で構成されている。2月5日と6日の2日間,カンファランスへの参加,外来の見学,講義の聴講,および手技の見学を行った。

2.カンファランス
 難治症例の治療方針についてのカンファランスに参加した。看護師が症例について提示を行い,問題点について討論していた。内科医,精神科医,麻酔科医,理学療法士,薬剤師,看護師など多職種にわたるメンバーが参加していた。麻薬中毒患者についての話題も出ていた。米国では麻薬中毒の問題が大きく,クリニックで処方される麻薬による依存についても同様の問題がある。中毒に加えて薬剤の転売の問題もあるため,薬物の尿中濃度を測定して,事前に麻薬を使用していないか,または処方薬を処方箋の通りに内服しているかどうかの検査を行っている。麻薬に対する依存については,わが国でも今後拡大する問題と思われ,貴重な議論ができた。

3.外来見学
 精神科医と麻酔科医による外来診療を見学した。受診前の患者は現病歴や生活歴などについて,事前にインターネットを通じての問診システムを利用して,記載することが求められる。また痛みのvisual analog scale(VAS)やquality of life(QOL)の評価など各種アンケートにも回答する(図2)。

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る