<< 一覧に戻る

Special Article 総説

健康日本21と新健康フロンティア戦略

戸山芳昭

Locomotive Pain Frontier Vol.2 No.1, 26-31, 2013

超高齢社会にあるわが国では健康寿命延伸が強く求められている。その中で,要支援・要介護の大きな原因を成す運動器疾患への対策は健康寿命延伸に不可欠であり,行政と国民そして医療関係者(主に整形外科医)が一体となって取り組むべき課題である。今回,国の健康づくり政策の中で「健康日本21(第二次を含む)」と「新健康フロンティア戦略」における運動器疾患対応への基本方針について,その概要を説明する。

はじめに

 世界的に類をみない超高齢化が進んでいるわが国では,今後ますます国民,特に高齢者に対する健康管理,健康寿命延伸が重要な課題である。そこで行政は,その中心として生活習慣病対策やがんを取り上げ,「健康日本21」や「新健康フロンティア戦略」を健康増進への国民運動として推進してきた。「健康日本21」は2000年度からの10年計画で,2010年3月末で終了となった。どこまで成果が出ているか期待されていたが,2011年,その最終結果が報じられた。その評価は後ほど紹介するが,最近発表された2011年のわが国の平均寿命は,男性79.44歳で,第1位香港(80.5),2位スイス(80.2),以下アイスランド(79.9),スウェーデン(79.8),イスラエル(79.7)となり,わが国は前年より0.11歳下がり第8位となった。そして,平均寿命26年連続世界一を維持してきた女性も男性と同様に,2011年の東日本大震災などの影響により85.90歳と対前年比0.4歳下がり,1位香港(86.7)に次いで2位となった。ちなみに,3位スペイン(84.9),4位フランス(84.8),5位スイス(84.6)である。香港には抜かれたが,依然として長寿国日本であることは間違いない。この平均寿命は,その国の医療体制とその質,社会的要素,食料・環境要素,人種的要素,経済状況など多くの要因に左右されるが,2011年の大震災を除いてわが国では当該年度にこれらの要因が大きく変動していたとは考えにくく,健康増進への取り組みが功を奏していると推察される。この平均寿命が世界トップクラスを維持し続けていることは素晴らしいことであり,「健康国家日本」としての評価は高い。加えて,高齢社会において最も重要視されるべき“健康寿命”も世界トップクラスにある。
 今後,この現実化した長寿・超高齢社会においては,国民がより健康で明るく元気に生活できる社会の構築は必要不可欠であり,行政はこの実現に向けてさらなる施策を講じる責任がある。国民が求めている「健康」とは「健康寿命延伸」そのものであり,今後のわが国の労働力確保を含めた社会的側面や膨大な医療費対策の面からみても国が国民と一体となって取り組むべき重要課題といえる。

健康日本21(図1)

 ご存じのように,厚生労働省は“21世紀における国民健康づくり運動=「健康日本21」”を2000年度よりスタートさせた。この「健康日本21」の基本的な考え方は,すべての国民が健康で元気に生活できる社会を実現するために,壮年期死亡と健康に関する生活の質の低下を軽減し,一人ひとりが自己の選択に基づいて健康を実現させること,個人の健康づくりを推進することである。このことは平均寿命の伸びや疾病有病率の低減だけでなく,生活の質の重視につながっている。この施策は主に生活習慣病やがん,こころの健康などが中心で立案され,運動器に関連した項目は「身体活動・運動」の中に含まれ,ほとんど重要視されていなかった。そこで,2005年の「健康日本21」中間評価時に日本整形外科学会が強力に働きかけを行い,上記項目の内に“安全に歩行可能な高齢者の増加”なる新たな項目の追加が承認された。
 さて一方,高齢社会においては,がんなどの疾病や外傷など積極的に治療が必要とされる患者ではなく,介護を要する状態下にある高齢者の急増が予想されることから,国は医療保険制度から介護者支援を切り離して2004年度から介護保険制度を立ち上げた。当初,総対象者は218万人で,総給付費年間3.6兆円であった。ところが2006年3月時の評価で,対象者は何と450万人,総給付費も6.5兆円まで急増し,2011年は8兆円を超えたことが明らかとなった。特に軽症の要支援・要介護1の対象者が急増し,その中に運動器疾患合併例が多いことも判明した。厚生労働省の資料にも,転倒・骨折,関節症などの筋骨格系疾患による下肢機能や基礎的体力の低下が引き金となり要支援・要介護の重症化へと向かうことが示されている。そして実際,3年に一度実施される国民生活基礎調査でも,常に関節疾患と転倒・骨折は要支援・要介護の原因の上位にランクされている。つまり,要支援・要介護者を減少させ,また重症化を防ぐためには骨折や腰痛・膝痛,骨粗鬆症などの運動器疾患への対応が急務であることは明白となっている。さらに,「健康づくりのための運動指針2006」でうたわれている“1に運動,2に食事,そして禁煙,最後に薬”と運動が健康づくりのための一番手にあげられている点や,生活習慣病予防のためにも運動は必須項目であるとされている点など,運動は健康増進,生活習慣病対策として重要視されている。しかし,膝痛や腰痛など運動器に障害を有している高齢者はきわめて多く,歩行などの基本運動が処方できない現状にある。その結果,悪循環に陥って下肢機能はさらに低下し,肥満や引きこもり・閉じこもりなどの状態をきたし,最終的に生活習慣病や要介護者の増加へとつながることになる。
 そんな中,新しい疾患概念として「運動器不安定症1が2006年に厚生労働省で承認され,その年度から保険診療下に正式な疾患名として使えるようになった。これは「高齢化によりバランス能力や歩行能力の低下が生じ,閉じこもり,転倒リスクが高まった状態」と定義されているように,運動機能が低下した65歳以上の高齢者要支援・要介護予備軍への早期診断,早期介入治療による臨床試験ともいえる。運動器を扱う整形外科医療にとって,本疾患が保険診療で対応できることは画期的なことと判断しているが,どの程度の運動機能低下高齢者群が本疾患としてピックアップされ,どの程度の割合で要支援・要介護者への流れを防止できたかを調査する必要がある。また,開眼片脚起立時間=15秒未満や3m Timed up and go test=11秒以上が本当に運動機能の評価基準として妥当か否かを検証する必要もある。よい結果を期待したい。
 さて,2011年に報告された「健康日本21」の最終結果であるが,全59項目中,目標値達成は10項目16.9%,改善傾向25項目42.4%,不変14項目23.7%,そして悪化9項目15.3%,評価困難1項目1.7%であった。約半数強が目標値達成ないし改善とのことであるが,当初目標としていた効果に達していたかは疑問である。また,国民運動がいまひとつ盛り上がりをみせず,啓発も不十分であったと思われる。なかでも運動器関連項目では,「日常歩数の増加」や「安全に歩行可能な高齢者の増加」,「カルシウム摂取量の増加」などは不変ないし悪化であった。医療費が不要で,場所や特別な用具もいらず,好きなときに一人で行える運動(歩行)は,生活習慣病の予防につながり,健全な運動器の維持にも有効であるが,前述の結果から判断して,まだまだ国民一人ひとりが「健康維持への運動習慣の重要性」の認識がきわめて不足しているものと思われる。このあたりを,次の「第二次健康日本21」でいかに啓発していくかが大きなポイントとなろう。

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る