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座談会(Round Table Discussion)

運動器慢性疼痛におけるニューロイメージングの進歩

中村雅也倉田二郎池本竜則許斐恒彦

Locomotive Pain Frontier Vol.2 No.1, 5-12, 2013

近年,脳機能画像医学の目覚ましい進歩により,機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging;fMRI)をはじめ,非侵襲的に脳活動を画像化するニューロイメージング技術が発達してきた。疼痛領域においても,ニューロイメージング法を用いた研究に基づく知見が積み重ねられ,運動器慢性疼痛における脳内神経活動の解明が進みつつある。そこで,今回はニューロイメージング研究に取り組まれている先生方にお集まりいただき,「運動器慢性疼痛におけるニューロイメージングの進歩」をテーマに,臨床および基礎研究の現状,ニューロイメージングの臨床的意義,今後の展望について座談会を行った。
(2012年11月15日収録)

出席者(発言順/敬称略)
中村 雅也(司会)
慶應義塾大学医学部整形外科 准教授

倉田 二郎
東京医科歯科大学医学部附属病院
麻酔・蘇生・ペインクリニック科 講師

池本 竜則
愛知医科大学運動療育センター 助教

許斐 恒彦
慶應義塾大学医学部整形外科 助教

運動器慢性疼痛の臨床における問題点(clinical question)

中村 超高齢化社会を迎えたわが国では,高齢者のADLおよびQOLに大きな影響を及ぼす運動器慢性疼痛に対する研究・診療の重要性が高まっています。しかしながら,運動器慢性疼痛の実態はいまだ明らかではなく,慢性疼痛に対する評価も主観的な視点に基づく方法で行われており,痛みを客観的に評価する方法はいまだ確立されていません。このような状況のなか,痛みに伴う脳活動を可視化し,病態の解明ならびに診断・治療への応用の可能性を探るニューロイメージング研究が近年盛んに行われています。そこで本座談会では,ニューロイメージングを利用して運動器慢性疼痛における脳の病態を客観的に評価することが可能であるかを理解するべく,臨床および基礎の第一線でご活躍されている先生方にお話を伺っていきたいと思います。
 最初に,クリニカルクエスチョンを整理するため,運動器慢性疼痛患者の日常診療において遭遇する問題点についてお聞かせいただけますか。
倉田 当院のペインクリニック外来には,帯状疱疹後神経痛,慢性腰痛症および肩こりのほか,まれに線維筋痛症を疑う患者さんが受診されます。こういった幅広い慢性疼痛患者さんと日々接していて感じるのは,解剖学的異常を認めて明確な診断に至る痛みが少なく,むしろ原因不明の痛みが多いということです。実際,運動器慢性疼痛に対して手術を行っても無効であったり,かえって悪化したりする患者さんもいらっしゃれば,帯状疱疹後神経痛で帯状疱疹が治ったにもかかわらず痛みが改善されないと相談に来られる患者さんもいらっしゃいます。
池本 私は,1年ほど前まで整形外科医として整形外科疾患全般の診療に携わっており,当時の経験ではすぐに改善する痛みもあれば,なかなか改善しない痛みもあって,その原因に頭を悩ますことが多々ありました。今は当センターにおいて主に他院から紹介されてくる疼痛患者さんの診療に取り組んでいますが,すでにさまざまな治療法・治療薬を試されて十分な効果が得られなかった状態にあるケースが多く,こうした難治性の慢性疼痛に対する解決策を見出すためにもニューロイメージング研究を進めているというのが現状です。
許斐 やはり,なかなか改善されない痛みで苦しむ患者さんに遭遇しますので,痛みに対してもっと早い段階で施すべき適切な対処法はないかという考えに基づき研究を続けてきました。脊髄損傷の研究に取り組んできた立場としては脊髄損傷による慢性的な異痛症(アロディニア)に注目し,その予防法やイメージング技術を用いて的確に病態を描出する方法を模索しています。また,痛みを定量的に評価することができれば疼痛診療におけるクリニカルクエスチョンの解決につながると考え,痛みの分子メカニズムの解明にも力を入れています。
中村 許斐先生がおっしゃったように当科では脊髄再生研究を行っており,脊髄損傷患者の約7割が脊髄損傷後のアロディニアで苦しんでいるという実態が明らかとなりました。こうした患者さんの苦痛を取り除く医療を推進するためにも,病態生理などいまだ解明されていない部分を基礎研究で突きつめ,さらに臨床に応用するべくニューロイメージング研究によるアプローチを進めています。

運動器慢性疼痛におけるニューロイメージング研究の現状

1.臨床研究:慢性疼痛患者における脳活動部位の同定

中村 先生方のお話から,麻酔科領域においても,整形外科領域においても,運動器慢性疼痛の日常診療に苦労されている実態がうかがえました。その解決の糸口としては,ニューロイメージングを用いて脳内の神経活動変化を指標に痛みを可視化することが有用であり,慢性疼痛の病態解明につながると考えられます。倉田先生,疼痛の病態理解はどのあたりまで進んでいるのでしょうか。
倉田 疼痛は,脳内において第一次・第二次感覚皮質,島皮質,前帯状皮質,前頭皮質,視床など,pain matrixとよばれる複数の部位が痛みの3つの要素(弁別・情動・認知)をそれぞれ同時に並行して担うことで成立すると考えられています。この概念に基づき,急性疼痛のメカニズムに関しては多くのことが解明されてきました。最近では,慢性疼痛における脳活動を解明するための研究が盛んに行われており,われわれもfMRIを用いて慢性腰痛患者の腰部圧迫刺激によるpain matrixのパターンを見出すための研究に取り組んでいます1。その結果を簡単に紹介しますと,腰部圧迫刺激により島皮質,運動前野および後帯状皮質などは賦活したものの,第一次・第二次感覚皮質はまったく反応せず,後帯状皮質の賦活は健常者よりも患者群において広範囲に観察されました。以上のことから,慢性腰痛は通常のpain matrixと異なるパターンを示し,それには慢性腰痛患者の強い情動反応が関連している可能性が示唆されました。
池本 われわれは,慢性神経障害性疼痛の症状の1つであるアロディニアに関連する脳活動について,fMRIで客観的に評価することが可能かどうかを臨床的に検討しています2。健常者および患者の手に機械的刺激を与えて比較したところ,患者群では健常者群にみられたpain matrix以外に前頭葉,補足運動野および帯状回においても神経活動を示すことが確認されました。また,アロディニアを有する神経障害性疼痛患者に対して手に触れられているイメージを見せるという視覚刺激のみによる仮想疼痛体験をさせた研究においても,前帯状回と前頭前野の活動が健常者群に比べて亢進していることが明らかとなりました。これらの結果から,慢性疼痛患者ではpain matrix以外の部位においても,痛みに関連する脳活動が生じている可能性があると示唆されます。
倉田 われわれは,アロディニアを呈する1症例について,痛み刺激または触刺激を与えたときの脳活動を検討したことがあります。基本的には健常者もしくは健側と同じ部位の賦活がみられましたが,その範囲が両半球にわたるなど異常に広がっていることが確認されました。一方,疼痛を訴えてペインクリニック外来を受診された患者さんで,心理社会的因子の関与が強いと思われた方に実験的疼痛を与えて同様に検討したところ,そういった反応がまったく認められませんでした。このような経験から,患者に実験的疼痛を与えてfMRIにより脳活動を観測することで,少なくとも神経障害性疼痛であるか否かを見分けることができるのではないかという印象をもっています。
池本 アロディニアを伴う患者で健常者と同じpain matrixにおいて広範囲な賦活がみられたということですが,VASとの間に相関はあったのでしょうか。
倉田 今回は検討していませんが,将来的に痛み刺激あるいは自発的な痛みに対する反応性,痛みの程度,罹患期間といった個々のパラメーターとfMRIの評価指標であるblood oxygenation level-dependent(BOLD)信号変化との関係を明らかにできれば,さらに重要な情報が得られるようになりますね。
池本 そうですね。また,最近では,pain matrixにターゲットを絞って血流量やヘモグロビン濃度の変化を測定することで,タスクを与えない状態でも脳内の神経活動変化を捉えることができるという考えに基づいた新しいfMRI法による研究も進められています。
中村 fMRIとは,タスクを与えて脳が刺激を受けた状態における賦活領域の脳血流量の増加に伴うBOLD信号変化を可視化することで脳機能を測定する方法ですよね。すなわち,タスクがない安静状態での評価が絶対値になるという認識をもっているのですが,池本先生がおっしゃられた方法で健常者と慢性疼痛患者の違いを比較することができるのですか。
池本 安静状態のfMRI(レスティングステートfMRI)により得られたBOLD信号変化の時系列データについて周波数解析を行い,周波数成分を比較して評価するという新しい方法を用いた研究成果が報告されています(図1)3

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