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Focus

トルバプタンが心不全増悪急性期に奏効し慢性期再入院の回避にも有効であった虚血性心筋症の1例

木原一

Fluid Management Renaissance Vol.1 No.2, 98-100, 2011

背 景
 57歳,男性。
 身長167cm,体重87kg。眼瞼,下腿ほか全身浮腫著明。BNP 746pg/mL。
既往歴:2004年より糖尿病性腎症で近医通院開始。2007年5月,下壁心筋梗塞で#2に経皮的冠動脈形成術(PCI)施行。2007年8月,前壁中隔梗塞で#7にPCI施行。
家族歴:特記すべきことなし。
生活歴:生来単身生活。糖尿病。糖尿病性腎症に対して摂取カロリーや塩分摂取制限をできる自制心に乏しい。
聴診所見:心尖部でⅢ音聴取。肺野に湿性ラ音を聴取。
心電図:V1~V3でQS,V4でpoor R。
胸部X線:CTR 55%,胸水の貯留と肺うっ血を軽度に認める。
心エコー図:前壁,前壁中隔,下壁の基部~中部の無収縮,EF 30%,LVDd 60mm,TPRG 47mmHg,E/E’ 24。

病 歴

 2004年より糖尿病性腎症で他医に通院していたが,2007年5月急性心筋梗塞(下壁心筋梗塞)で当院に緊急入院し,#2にPCIを行った。
 その後,2007年8月急性心筋梗塞再発(前壁中隔梗塞)をきたし,#7にPCIを行った。心機能は著しく低下し,前壁,前壁中隔,下壁ともに基部~中部にかけ無収縮をきたし,EFは30%と虚血性心筋症の病態を呈し,糖尿病性腎症(CKD)とあいまって,また本人の塩分制限や摂取カロリー制限の悪さも影響して2009年に入り頻回に慢性心不全増悪をくり返し,カルペリチド注およびフロセミド注,カンレノ酸カリウム注により心不全の改善を図ったが,難治性で改善に時間を要していた。
 2011年1月4日,体重87kgと全身浮腫による14kgの増加および肺うっ血,胸水貯留,呼吸困難をきたし,緊急入院となった。

治療経過

 入院時収縮期血圧120mmHg,clinical scenario 2でNohria-Stevenson分類のwarm & wetと判断し,利尿薬中心の治療,カルペリチド注0.05μg/kg/分の持続注入,フロセミド注10mgおよびカンレノ酸カリウム注100mgの静注(朝,夕の計2回/日),さらにはドブタミン注3μg/kg/分の持続注入の併用で治療を開始した。
 もとよりの定期薬バルサルタン40mg,カルベジロール2.5mgは,休薬することなくそのまま継続服用とした。
 治療開始後初日の尿量は1,900mLで,SpO2の改善も不良で(酸素2L/分,吸入下93~95%)息切れ,呼吸苦の改善も不良であり,1月5日よりトルバプタン7.5mgを2週間連日併用したところ,投与初日の尿量は3,500mL,翌日より2日間は6,500mL,投与4日目は4,600mLと著しい利尿をきたし,呼吸苦の改善,体重の減少(入院後7日目で-13kgの元の体重74kgへ),全身浮腫の改善,胸水の消失,肺うっ血の軽減を認めた(図1)。

 トルバプタン服用中,連日血清Na,K,Cl,BUN,Crのチェックを行い,懸念された血清Na濃度の上昇や腎機能の悪化をきたすこともなく,自他覚症状の改善をきたした。
 また,ドブタミン注やカルペリチド注も2週間で中止でき,早期離脱に有効であった。
 1月21日,軽快退院となったが,EF 30%の低左心機能,糖尿病性腎症に基づく腎機能障害(Cr 1.30mg/dL, eGFR 45.2mL/分/1.73m2),もとよりの塩分,水分摂取量の節制が難しいことを考慮し,脱水や高ナトリウム血症の副作用に注意し,フロセミド錠40mgの連日処方にトルバプタン7.5mgの隔日処方を併用し,軽度の浮腫や体重の変動(75kg前後までの増加)は認めるものの,入院を必要とするような著明な浮腫や体液貯留は認めていない。
 現在に至るまで約8ヵ月間外来にてフロセミド錠40mgの連日服用およびトルバプタン7.5mgの隔日服用は継続し,週2日のカルペリチド注(0.05μg/kg/分)4時間持続静注を行っている。
 以後,慢性心不全急性憎悪による入院が回避され,外来通院治療が継続できている。

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