Focus
トルバプタン投与によりCHDF から離脱できた難治性虚血性心不全の1例
Fluid Management Renaissance Vol.1 No.2, 94-97, 2011
背 景
75歳,男性。
既往歴:陳旧性心筋梗塞,冠動脈バイパス術(CABG)後,糖尿病,心室細動(Vf),植え込み型除細動器(ICD)植え込み後,脂質異常症,高尿酸血症。
家族歴:特記事項なし。
生活歴:特記事項なし。
現病歴:2003年,前璧陳旧性心筋梗塞の診断でCABG(LITA-#7,RGEA-#4PD)を施行された。2007年より心不全で入退院をくり返した。2008年8月,冠動脈造影(CAG)施行,RCA seg1 100%,LAD seg6 100%,seg7 75%,LCX seg11 99%,seg13 90%,LITA to LAD patent,RGEA to #4PD 100%であった。2010年8月10日,院内駐車場で倒れていたのを発見,ただちに救急外来搬送,心電図(ECG)上でVfを認め除細動施行。eCAG上LMT:100%,RCA seg1 100%,LITA to LAD patent,RGEA:totalであった。アミオダロン200mg導入後,8月に広島大学病院紹介。心臓再同期療法(CRT)の適応はないと診断され,ICD植え込みが施行された。その後も月1,2回の頻度でICDが作動していた。2011年1月17日,自宅トイレで失神し当院救急搬送,ICD作動による除細動を認めた。胸部聴診上ラ音聴取せず動脈血ガス分析上room airでPO2 80toorと低酸素血症は軽度であったが,血液検査上BNP 1,209pg/mLと上昇,胸部レントゲン上肺うっ血と胸水貯留を認め,心不全増悪の診断で入院となる。
治療経過
入院後2011年1月31日に施行した心エコー上,LVEF 25%,僧帽弁逆流Ⅲ度であった。フロセミド10mg静注後カルペリチド0.03γ投与により治療開始。間欠的にフロセミド20mg静注を併用し,利尿不良により1月31日よりフロセミド48mgの持続静注を開始したが,利尿不良で体重は増加傾向であった。血圧低下を認めたため2月3日カルペリチドを0.013γに減量し,ドパミン3γ,ドブタミン2γ投与を開始した。腎機能悪化したためフロセミド持続投与を間欠投与に変更,2月4日よりミルリノン0.10γを併用した。その後,胸部レントゲン上胸水貯留の改善が乏しいことよりドパミン,ドブタミン,ミルリノンを徐々に増量し,2月7日よりピモベンダン2.5mgの内服を追加したが,利尿は不良であった。2月9日の胸部レントゲン上,肺うっ血増悪を認めた。2月9日夜,non-sustained VTが出現し,心不全増悪による心室性不整脈増悪と診断し大動脈内バルーンパンピング(IABP)を挿入するとともにフロセミド96mgの持続静注を開始した。IABP挿入後利尿良好となり,1日2,000mL以上の利尿が得られ,胸部レントゲン上の肺うっ血も改善した。しかし,2月15日より尿量が減少し胸部レントゲン上肺うっ血が再出現したため利尿薬のみによる治療は困難と判断し,持続的血液透析濾過療法(continuous hemodiafiltration;CHDF)を導入した。CHDFによる十分な除水により,胸部レントゲン上肺うっ血および胸水貯留は消失した(図1)。

2月21日,IABPより離脱したがCHDFなしでは十分な除水は困難な状態で,Cr 3.49まで悪化した。透析導入も検討したが,血行動態的に困難であった。2月27日よりトルバプタン7.5mg内服開始,1日約2,000mLの尿量が得られ,ミルリノン,ドパミン,ドブタミン,フロセミドから順次離脱,3月2日にはすべての静注薬を中止した(図2)。

その後,心臓リハビリテーションを施行し外出可能な状態まで改善した。5月6日および9日に外出,5月10日の胸部レントゲン上両側胸水出現,カルペリチド0.03γ投与開始したが改善しないため,5月23日よりフロセミド40mgの持続静注も併用したが,効果不十分であった。家族より終末医療への移行の希望があり,積極的治療は施行せず。6月16日,ICD無効のVfにより死亡した。
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。