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臨床セミナー これからの心不全バイオマーカー

第2回 心不全における心筋傷害マーカー(トロポニンT,トロポニンI,H-FABP)

清野精彦

Fluid Management Renaissance Vol.1 No.2, 70-74, 2011

心筋傷害マーカー
 心筋細胞傷害を診断するための心筋生化学マーカーでは,細胞質可溶性分画に存在するクレアチニンキナーゼ(CK),CK-MB,ミオグロビン(Mb),心臓型脂肪酸結合蛋白(heart-type fatty acid-binding protein;H-FABP)と,筋原線維を構成するトロポニンT(TnT),トロポニンⅠ(TnI),ミオシン軽鎖,そして心筋ストレスに応じて血中への分泌が亢進するB型Na利尿ペプチド(B-type natriuretic peptide;BNP),N端-proBNP(NT-proBNP)などが活用されている(図1)1)-4)。

心筋傷害マーカー(続き)

心筋傷害マーカーは,一般的に急性冠症候群の診断とリスク層別化に活用されている。すなわち,虚血性心筋細胞傷害を生じると,まず心筋細胞膜が傷害されて細胞質可溶性分画マーカーが循環血液中に遊出する(図1右上)。

虚血が軽度で短時間のうちに解除されれば,これらのマーカーの上昇は軽微かつ短時間であり,心筋細胞傷害が可逆的である可能性が考えられる。しかし急性冠症候群で血小板に富む白色血栓による非完全閉塞病変の場合には,破砕した血栓やプラークの微小塞栓により末梢灌流領域に微小心筋梗塞が生じる場合があり,非ST上昇型心筋梗塞がこの病態に一致する。このような場合,最も鋭敏なマーカーであるTnTやTnI,H-FABPの上昇により非ST上昇型心筋梗塞を診断することができる。さらに虚血が高度かつ長時間に及んだ場合(赤色血栓による完全閉塞:ST上昇型心筋梗塞の場合)には筋原線維が分解され,TnT,TnI,ミオシン軽鎖などの筋原線維マーカーが持続的に循環血液中に遊出してくる(図1右下)。この過程では,すでに心筋細胞は不可逆的壊死に陥ったものと判断される1)-4)。
 また,BNPやNT-proBNPなどの心筋ストレスマーカーは,左室収縮能・拡張能障害,左室拡張末期圧上昇,左室肥大,心筋虚血などのストレスにより血中濃度が上昇し,心不全の診断,重症度評価,治療評価,予後推測などに活用されている(図1左下)。

心不全における心筋傷害マーカーの測定

 われわれは,急性心筋梗塞や不安定狭心症などの急性冠症候群における心筋傷害・壊死を鋭敏に診断するTnT,TnI,H-FABPなどの心筋傷害マーカーを,心不全症例や心筋症,高血圧症例などで測定することにより潜在性心筋傷害(ongoing myocardial damage;OMD)を検出し,その重要性を提唱している5)-8)。慢性心不全症例において,心筋・筋原線維由来のTnTと心筋細胞質可溶性分画由来のH-FABPを測定(従来のアッセイによる)することによりOMDについて分析を加えた5)6)。その結果,健常者ではTnTは循環血中に検出されない(従来のアッセイ検出感度0.01ng/mL未満)のに対し,慢性心不全症例NYHA分類Ⅱ度の約10%,Ⅲ度の約70%,Ⅳ度の約90%で血中への遊出(≧0.02ng/mL)が認められ,さらに血中H-FABP濃度はNYHA分類が重症になるほど高値を示し,心不全が重症なほどOMD検出頻度が高いことが明らかにされた(図2,3) 5)6)。

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