バソプレシンと受容体拮抗薬の臨床応用
多発性囊胞腎とバソプレシンV₂受容体拮抗薬
Polycystic kidney disease and vasopressin antagonists
Fluid Management Renaissance Vol.1 No.2, 56-63, 2011
Summary
2011年現在,常染色体優性多発性囊胞腎(ADPKD)に対してアルギニンバソプレシン(AVP)V2受容体(V2R)拮抗薬(トルバプタン)の囊胞抑制効果を探る第Ⅲ相の二重盲検プラセボコントロールの臨床治験が進行中である。本稿では,ADPKDの治療薬としてなぜV2R拮抗薬が治験されるに至ったかをADPKDと他の遺伝性囊胞性腎疾患における発症の機序の共通性から解説した。主要な項目は,尿細管上皮細胞管腔側に存在する線毛の役割,Ca2+とcAMPを介する細胞内シグナル伝達系,囊胞性腎疾患において尿細管の囊胞化に中心的な役割を担うAVPとcAMP,囊胞性腎疾患動物モデルにおけるV2R拮抗薬の効果,トルバプタン臨床治験の途中経過の報告,AVPの腎への悪影響,水分摂取によるADPKD治療の可能性などについて述べた。
Key words
■多発性囊胞腎 ■ADPKD ■バソプレシン ■バソプレシンV2受容体拮抗薬 ■トルバプタン
はじめに
多発性囊胞腎とは,主に常染色体優性多発性囊胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease;ADPKD)を指すが,常染色体劣性多発性囊胞腎(ARPKD)を含める場合と,広義でネフロン癆などの他の遺伝性囊胞性腎疾患も含める場合がある。現在,ADPKDにおけるアルギニンバソプレシン(AVP)V2受容体(V2R)拮抗薬(トルバプタン(商品名サムスカ®。最近,心不全,低Na血症などの治療薬として日本,米国,欧州で認可された))の効果を調べる第Ⅲ相臨床治験が日本を含め全世界的に行われているが,本稿ではADPKDについてなぜV2R拮抗薬が治験されるに至ったかの経緯を,他の遺伝性囊胞性腎疾患との発症の機序における共通性を含め紹介したい。
ADPKDの臨床的事項
ADPKDは遺伝性腎疾患として最も多い疾患であり,人口約3,000~7,000人に1人の割合で存在するといわれる1)。わが国の疫学調査では,70歳で約半数が末期腎不全になり,透析患者の約3%を占め,透析導入の原因疾患として4番目に多い。臨床的には,30歳前後で高血圧を発症し,多発した腎囊胞の腫大により徐々に腎機能が悪化する。また,患者の約80%に肝囊胞を伴う。小児では稀であるが,成人以降必ずしも高血圧を伴わない脳動脈瘤の破裂(クモ膜下出血)による死亡が約4~7%の患者で認められる。
記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。
M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。