バソプレシンと受容体拮抗薬の臨床応用
うっ血性心不全
Congestive heart failure
Fluid Management Renaissance Vol.1 No.2, 50-55, 2011
Summary
うっ血性心不全は,心臓のポンプ機能不全の結果生じる臨床症候群である。心臓のポンプ機能不全により心拍出量が低下すると,交感神経系,レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系,サイトカイン系の賦活により代償的に心拍出量や血圧の維持を図ろうとする。しかし,その代償機構が破綻すると急性増悪をきたす。うっ血性心不全の治療は,その病態にあわせて利尿薬,血管拡張薬,レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系阻害薬,β遮断薬などが用いられる。そのうち利尿薬は体液量が過剰な心不全には有効であり,肺うっ血や浮腫を軽減することによって症状を改善し,患者のQOLを改善させる。バソプレシンV2受容体拮抗薬は,従来の利尿薬と異なり尿中電解質排泄を増加させず,水排泄の増加をもたらす。これまでのうっ血性心不全患者を対象とした臨床試験の結果,腎機能や神経内分泌因子に影響を与えずに水利尿作用を示し,過剰な体液量や浮腫,低Na血症の改善といった臨床的有用性が認められている。
Key words
■うっ血性心不全 ■体液貯留 ■バソプレシン受容体拮抗薬 ■水利尿作用 ■電解質
はじめに
うっ血性心不全は,心臓のポンプ機能不全の結果生じる臨床症候群である。心臓のポンプ機能不全により心拍出量が低下すると,交感神経系,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系,サイトカイン系の賦活により代償的に心拍出量や血圧の維持を図ろうとする。しかし,その代償機構が破綻すると急性増悪をきたす。うっ血性心不全の治療は,その病態にあわせて利尿薬,血管拡張薬,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害薬,β遮断薬などが用いられる1)-3)。そのうち利尿薬は体液量が過剰な心不全には有効であり,肺うっ血や浮腫を軽減することによって症状を改善し患者のQOLを改善させる。フロセミドを代表としたループ利尿薬は,主にヘンレループ上行脚の太い部分に存在するNa+/K+/2Cl-共輸送体に結合し,これらのイオンの細胞内への取り込みを阻害し,尿への排泄を促進する。つまり,ヘンレループ上行脚では水よりもNa,Clの透過性が高いため尿細管腔周囲の間質液側へ移行し,周囲の間質液の浸透圧を上昇させヘンレループ下行脚より水が間質液へと移行するが,フロセミドがこの部位でのNa再吸収を抑制することによりヘンレループ下行脚での水の移行が阻害される。その結果,尿の濃縮機構が阻害され,尿量の増加をもたらす。一方で,低Na血症,低K血症といった電解質異常を引き起こす可能性が高く,非K保持性利尿薬の使用は予後を悪化させることが示唆されている4)。また,うっ血性心不全の悪化に伴い利尿薬の増量が必要となるが,高用量の利尿薬投与は腎機能の悪化を招き,予後に悪影響を及ぼす。しかし,うっ血性心不全の増悪による入院の大半は過剰な体液量が原因であり,安全かつ有効な利尿薬治療が必要とされている。バソプレシンV2受容体拮抗薬は,電解質バランスを損なわず純粋に水を排泄させることが確認されており(水利尿作用),体液貯留を伴ったうっ血性心不全患者での有用性が明らかになりつつある。
バソプレシン受容体拮抗薬の薬理学的特徴
バソプレシンは9個のアミノ酸からなるペプチドホルモンであり,V2受容体を介して腎集合管における水の透過性を亢進し,水再吸収を促進する。一方,血管平滑筋や肝細胞などに発現しているV1a受容体は血管収縮や糖代謝の機能に関与し,脳下垂体に発現しているV1b受容体は副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(corticotropin releasing hormone;CRH)様の作用を示すとされている。
一方,バソプレシン受容体拮抗薬としてトルバプタン,モザバプタン,conivaptan(日本未承認),satavaptan(日本未承認),lixivaptan(日本未承認)が開発されているが,これらのうちトルバプタンはヒトバソプレシン受容体発現細胞を用いた受容体結合試験においてV2受容体に最も高い親和性を示し,V1a受容体に比較して29倍高い親和性を示したが,V1b受容体に対する親和性は認められなかった。トルバプタンのV2受容体拮抗作用はバソプレシンそのものより約2倍強く,これまで報告されているV2受容体拮抗薬のなかで最も強力とされている5)。
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。