バソプレシンと受容体拮抗薬の臨床応用
バソプレシン製剤と受容体拮抗薬の概要
Vasopressin agonists and antagonists
Fluid Management Renaissance Vol.1 No.2, 15-21, 2011
Summary
バソプレシン(AVP)受容体拮抗薬は,腎集合尿細管細胞におけるAVPの抗利尿作用(V2作用)を特異的に阻害する非ペプチド性拮抗薬である。同薬は経口投与可能で,作用時間も長く1日1回の投与で利尿作用が保持される。これまでin vivoの動物モデルで,SIADHや心不全ラットの水利尿不全を著しく改善することが示された。臨床的には,AVPの持続的な分泌過剰のみられる病態でAVP V2受容体拮抗薬は利尿効果が期待できる。今日,国内でモザバプタンは異所性AVP産生腫瘍によるSIADHに,トルバプタンはうっ血性心不全の治療に用いられている。
Key words
■AVP V2受容体 ■低Na血症 ■水利尿 ■SIADH ■うっ血性心不全
はじめに
水代謝調節にあずかるバソプレシン(arginine vasopressin;AVP)には,AVPの分泌不全と分泌過剰による2つの病態が考えられる。前者は中枢性尿崩症で,AVP構造アナログの1-deamino-8-D-arginine vasopressin(DDAVP)が今日まで治療の主役を担っている。後者は,水利尿不全を惹起して低Na血症を引き起こす。過剰に分泌されたAVPは腎集合尿細管細胞の血管側細胞膜上のV2受容体に結合後,cAMPを介してアクアポリン2(AQP2)水チャネルを動員し,水の再吸収を促進させる。AVPによる持続的な抗利尿作用の結果,循環血漿量が増加するが体内のNa含量には大きな変化がないため,希釈性低Na血症が招来される1)。AVPが尿濃縮能の律速因子となるので,AVPの分泌あるいは腎作用を調節できれば水利尿不全,低Na血症の治療につながる。AVP V2受容体拮抗薬はAVPの受容体結合を競合的に阻害するので,水利尿を促進して増加した循環血漿量を補正することから,低Na血症,水利尿不全の治療に有用なことが期待できる。
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