バソプレシンと受容体拮抗薬の臨床応用
(座談会)バソプレシンと受容体拮抗薬の臨床応用
Fluid Management Renaissance Vol.1 No.2, 7-14, 2011
抗利尿ホルモンであるバソプレシンとその受容体については,近年の受容体ノックアウトマウスをはじめとする先進的研究の結果,新たな知見が次々と報告されている。水利尿という新たな機序をもつバソプレシンV2受容体拮抗薬トルバプタンの登場に伴い,新時代の研究と臨床を結びつける発想と経験が必要となる。本座談会では,バソプレシンとその受容体をめぐる知識のUp-Dateを目的とし,脳中枢におけるバソプレシンの作用から過剰状態がもたらす病態と治療薬の歴史,臨床応用の可能性と副作用まで,基礎と臨床にわたる幅広い話題をご提供いただいた。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
腎臓内科学教授
佐々木 成(司会)
自治医科大学附属さいたま医療センター
内分泌代謝科教授
石川 三衛
帝京大学医学部泌尿器科主任教授
堀江 重郎
産業医科大学医学部第1生理学教授
上田 陽一
-Over View-バソプレシンと受容体の新しい作用と臨床応用
佐々木 バソプレシンは抗利尿ホルモン(anti-diuretic hormone;ADH)であり,透析患者の敗血症性ショックや透析時低血圧の治療などの用途でも臨床応用されています。バソプレシン受容体にはV1a,V1b,V2という3つのサブタイプがあり,近年はノックアウトマウスを用いた研究によって中枢神経系における行動や精神症状にV1受容体が作用することが報告されており,創薬のターゲットとしても注目されています。
一方,バソプレシンのV2受容体への結合を競合的に阻害するトルバプタンは,適応疾患である低Na血症やうっ血性心不全のほか,多発性囊胞腎(polycystic kidney disease;PKD)への効果も報告されています。水代謝を司るバソプレシンV2受容体に直接作用する薬剤が誕生し,臨床応用に至ったことは非常に喜ばしいことです。今後は臨床での使用経験が蓄積されるとともに,トルバプタンによる利尿治療の多様な展開が期待できるでしょう。
本座談会では,各専門の先生方にお集まりいただき,「バソプレシンと受容体拮抗薬の臨床応用」をテーマにディスカッションしたいと思います。
バソプレシン製剤と使用
佐々木 まずは,バソプレシン製剤の尿崩症,あるいは夜尿症への使用について石川先生にお伺いいたします。
石川 現在臨床で使用されているバソプレシン製剤は,バソプレシンペプチドの構造アナログの1つであるデスモプレシン(D-アルギニンバソプレシン(DDAVP))で,1970年代に開発されたものです。DDAVPにはV1受容体への作用がほとんどなくV2受容体に選択的に働き,その作用時間が数~10数時間と長いため,中枢性尿崩症と夜尿症に有効です。1日1~2回の点鼻投与で良好に管理することができます。海外では点鼻薬よりも高い濃度の経口薬も承認されており,日本国内でも経口薬に関する治験が進められているところです。
佐々木 花粉症などの場合,点鼻で吸収が悪くなることはないのでしょうか。
石川 鼻粘膜が濡れていると薬剤を吸収できませんので,点鼻前に鼻をかみ,鼻のなかをティッシュで拭くように指導します。
佐々木 医師側の丁寧な指導と患者の慣れが必要ですね。DDAVPを使用するのは中枢性尿崩症と夜尿症のみと考えてよいでしょうか。
石川 腎性尿崩症への投与も試みられていますが,なかなか効果が出ないようです。
佐々木 泌尿器科を受診される夜尿症,中枢性尿崩症の患者ではいかがですか。
堀江 小児の夜尿症は脳波異常・睡眠深度と排尿がリンクしますので,尿濃縮によって夜間の排尿回数を減らすことが可能になります。また,通常バソプレシン濃度は夜間に上昇しますが,高齢者では日内変動が乏しいため相対的な尿崩症が発現します。1日の尿量の3分の1以上が夜間に排出されるような夜間多尿の症例では,デスモプレシン投与によって尿崩症の有意な改善がみられました。低Na血症,心臓への負担には注意が必要ですが,小児の尿崩症,夜尿症に対する用量で,高齢者もおおむね有効でした。
佐々木 腎機能の低下が軽度の高齢者でも,夜間の頻尿に困る場合はよくありますね。尿崩症,夜尿症は患者数が多いですから,経口薬の臨床使用が可能になれば治療の可能性が広がることでしょう。
ありがとうございました。
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。