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利尿薬と心不全

腎障害合併心不全の病態と治療

Pathophysiology and treatment of heart failure associated with chronic kidney disease

絹川真太郎筒井裕之

Fluid Management Renaissance Vol.1 No.1, 32-39, 2011

Summary
近年の臨床疫学調査により,これまで推定されていた以上に慢性腎臓病は心不全に高頻度に合併することが明らかとなった。慢性腎臓病と心不全の合併は,治療を困難にするだけでなく予後を悪化させる。従来から,心拍出量低下による腎血流量低下が最も重要な因子と考えられていた。しかしながら,むしろ心不全によるうっ血,中心静脈圧上昇が腎機能低下のより重要な因子であることが報告されるようになった。さらに,このような心不全・腎機能障害の血行動態による悪循環だけでなく,神経体液性因子が関与し相乗的に病態を悪化させると考えられている。少しずつ心腎症候群の病態が明らかにされつつあるが,まだ不明な点が多く,有効な治療法も確立していないのが現状である。今後,病態の解明および治療法の確立を目指し,さらなる研究の進展が必要である。

Keywords
■心不全 ■慢性腎臓病 ■JCARE-CARD研究 ■レニン-アンジオテンシン系 ■腎うっ血

はじめに

 慢性腎臓病(chronic kidney disease;CKD)では心血管合併症の頻度が高く,心臓死は健常者の10~20倍である。特に,蛋白尿の存在や糸球体濾過率(glomerular filtration rate;GFR)の低下は心血管病の独立した危険因子であり,予後を悪化させる因子でもある。
 一方,心不全患者においてはしばしば腎機能障害を合併する。心不全と腎機能障害の合併はそれぞれの病態を悪化させ,治療抵抗性となり,結果として予後の悪化を引き起こす。このように,心臓と腎臓の機能は密接に関連しており,近年「心腎連関」として注目されている。しかしながら,心不全において腎機能障害が起こる詳細な機序やその影響については不明な点が多く,治療法も確立されていない。
 本稿では,CKDを合併した心不全の病態と治療法を概説する。

腎障害を合併した心不全の臨床像

 Acute Decompensated Heart Failure National Registry(ADHERE)研究では,急性代償不全患者の30%が慢性腎機能障害を有し,5%が透析療法を受け,20%が血清クレアチニン2.0mg/dL以上,9%が血清クレアチニン3.0mg/dL以上であったとされている1)。さらに,Cockroft-Gaultの式を使ってGFRを推定すると,男性の平均が48.9mL/分/1.73m2,女性が35.0mL/分/1.73m2であった。GFRによるNational Kidney Foundation分類に従ってADHERE研究のデータを解析すると,Stage Ⅲ以上の腎障害を有する患者は男性で60%以上,女性では90%に達した2)(図1A)。

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