Column コラム
名画で読む「骨」の物語 第3回 骨なしヴァランタンとロートレック
掲載誌
O.li.v.e.―骨代謝と生活習慣病の連関―
Vol.5 No.4 68-69,
2015
著者名
中野京子
記事体裁
抄録
疾患領域
代謝・内分泌
/
骨・関節
/
小児疾患
診療科目
整形外科
/
リウマチ科
/
産婦人科
/
糖尿病・代謝・内分泌科
/
小児科
媒体
O.li.v.e.―骨代謝と生活習慣病の連関―
19世紀末のパリ.小高いモンマルトルの丘では,かつての僻村の名残たる風車をトレードマークにしたキャバレー「ムーラン・ルージュ」(「赤い風車」の意)が大勢の客を引き寄せていた.人々は着飾って酒を飲み,ホールで踊り,娼婦を物色した.何より熱狂したのは,プロのダンサーたちが踊るダイナミックで猥雑なシャユー(=カンカン)だった.開店はエッフェル塔が建設された年と同じ,1889年.2年後にはロートレックのポスター『ムーラン・ルージュのラ・グリュ』が発表されて大評判となり,店の人気に一役も二役も買った.「ポスターを芸術の域へ高めた」と讃嘆されたこの四色刷リトグラフは,文字,人物,色彩の配置が大胆,かつ斬新で,今なおデザイン性の高さと魅力を失っていない.中央で足を高く上げ,スカートを翻して激しいカンカンを踊るのが,タイトルのラ・グリュ(「大食い」の意).モンマルトルのスター・ダンサーだ.手前には相手役の特異なシルエット.極端な鷲鼻,突き出た顎,山高帽をかぶり,どこかくねくねして見える.彼もまたダンスの名手として知られていたが,どれほどアクロバティックに踊ったかは,そのあだ名を聞けば想像できる.「骨なしヴァランタン」というのだった.
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。